ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第8番「悲愴」 第1楽章 Op.13
Beethoven, Ludwig van : Sonate für Klavier Nr.8 "Pathetique" 1.Satz Grave-Allegro molto e con brio
作品概要
解説 (2)
解説 : 岡田 安樹浩
(898 文字)
更新日:2019年1月6日
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解説 : 岡田 安樹浩 (898 文字)
ハ短調 4分の4拍子/2分の2拍子 序奏付きソナタ形式
[序奏部]
Graveの序奏はフォルテ・ピアノ(fp)の指示によってディナーミクのコントラストが追求されている。音の持続性に優れた現代のピアノでは、この表現はほとんど不可能であろう。和音と付点リズムによる動機のソプラノ・ライン(2小節単位でハ→ヘ→ハ)と、変イに到達してからの急速な落下音型は、主部における主要主題の動機に通じており、付点リズムの動機が発展した後、急速な半音階下降を経て主部へ突入する。
[提示部]
主要主題(第11小節~)は、オクターヴのトレモロ・バスの上に和音上行(ソプラノ・ラインはハ→ホ→ヘ→ト→変イ→ロ→ハ)と下降(ハ→ト→変ホ→ニ→ハ)。既に述べたように、主要主題を構成する動機の核となる音は、序奏部の動機と対応している。
主題が反復して確保されたのち、属和音の分散和音落下音型、主要主題の発展的あつかいによる推移を経て、副次主題(第51小節~)が変ホ短調(平行調の同主短調)で提示される。中音域の属保続音の上下にあらわれる動機(変ロ→変ホ→ヘ→変ト)は、後に第3楽章の主要主題としてあらわれる。
変ホ長調による経過的な第2の副次主題(第89小節~)を経て、コデッタでは主要主題を変ホ長調で回想される。
主部は反復記号によってリピートされるが、いくつかの版ではこの反復が冒頭の序奏部を含んでいるが、初版譜と同時代の諸版では主部のみの反復である。
[展開部+再現部]
まず序奏部Graveがト短調で回想され、次に主要主題がホ短調であらわれる。続いてオクターヴ・トレモロの保続音が上声部に移り、下声部で主要主題の要素が展開されると、今度はハ短調へ転じ、バスに属保続音のオクターヴ・トレモロをともなって主要主題が発展する。8小節の移行を経て再現部へ到達する。
再現部(第195小節~)では、1つ目の副次主題(第221小節~)がヘ短調で再現され、2つ目の副次主題はハ短調で再現される。
コーダ(第295小節~)において序奏Graveが再びあらわれるが、和音が省略されて付点リズムのみとなっている。もう一度主要主題があらわれて楽章が閉じられる。
演奏のヒント : 大井 和郎
(1989 文字)
更新日:2019年12月20日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (1989 文字)
まさに禁断の掟を破ったかのようなベートーヴェンの代表的なソナタです。このソナタの登場により、これまで暗黙の了解でやってはいけなかったことが全部破られてしまったわけですね。しかしながら、背景にはいつでもある弦楽四重奏やピアノトリオ、オーケストラ的な要素はまだ健在です。51小節目以降のセクションは、まさに弦楽四重奏と言えるでしょう。いつでも器楽をイメージして演奏して下さい。
このソナタは技術的にも大変難しく、筆者にとっては熱情ソナタの方がまだ楽な位、このソナタの技術は相当大変です。誰もが弾いてみたい衝動に駆られるソナタだとは思いますが、筆者個人的な意見で、このソナタは初期、中期のベートーヴェンのソナタの中では、一番最後に手を付けた方が良いソナタだと思っています。
冒頭、1ー10小節間、実にいい加減に弾かれてしまうセクションです。何がいい加減になってしまうかというとタイミングの問題です(リズム)。この最初に記載されている、graveのようなテンポで、音符の種類が、4分音符から32分音符まで使われている場合、タイミングは狂いやすいし、無理もありません。このうような時は、「サブディビジョン」という手段を使います。サブディビジョンとは、細分化するということで、細かい音符を基本にリズムを取っていきます。
もっとも難しい方法としては、4分音符を基本にリズムを取るやり方で、これは混乱します。もっとも確かな方法としては、32分音符を基本に考えるやり方ですが、メトロノームなどでは、これはかなり速いクリックになりますので、その手前の、16分音符を基準にリズムを取るようにします。
例えば、16分音符1つの速さをメトロノームで100ー110に設定します。そうしますと4分音符を弾いたとき、クリック4つですので、数えやすくなります。8分音符基準でも構わないのですが、最初は16分音符で試してみて下さい。こうしていくと、多少の無理が生ずる小節が2カ所あります。4小節目と10小節目です。ここはどうしても32分音符より音符が細かくなる小節ですので、メトロノーム通りには進めません。カデンツ的部分ですから、多少時間を取っても構いません。
この2小節以外の小節はきちんとカウントを取って下さい。
次の提示部、Allegro di molt e con brioに入る前に、ここで、ベートーヴェンのソナタを弾く際に注意しなければならない事を2つ説明いたします。これは、このソナタに限らず、ベートーヴェンの作品全てに共通することですので憶えて下さい。
まずスフォルツアンドと言う意味です。フォルテの左側に小さい s が付いている記号で、これは多くの学習者が、「その音だけを特に強く」と理解しています。実際は、「そのダイナミックの範囲内でその音だけを強く」です。つまり、前者で言うと、pであろうがFであろうが、大きい音を出すと言う風に理解していますが、実際は、ダイナミックが何であるかによってスフォルツアンドの強さは異なってきます。
例えば、フォルテのセクションにスフォルツアンドがあれば、かなり大きな音を弾くことになりますが、pのセクションにスフォルツアンドがあれば、ほんの少しアクセントを付ける程度になります。例えば、27小節目をご覧下さい。マーキングはpです。ですから2拍目のスフォルツアンドは少しだけアクセントを付ける程度に留めなければなりません。
これが1つ。
もう1つは、ダイナミックの指示の話です。彼が(ベートーヴェンが)例えば、クレシェンドと書いていたら、そこからクレシェンドするのですが、彼がリクエストをしてからそれに従います。例えば,11小節目をご覧下さい。11ー14小節間、音形はどんどん上行していますね。だからついついクレシェンドをかけたくなってしまうのですが、彼がクレシェンドをリクエストしているのは、15小節目からです。ですから、ここまではpに留めておきます。この、ダイナミックの位置を正確に守ることが2つ目に大事なことになります。
音楽的な理解の仕方についてですが、基本的に、和音を長・短・減・増と分けた場合、単純に、短と減が悲痛な気持ちを表し、長は安堵や期待感など肯定的な気持ちを表わすと考えて良いと思います。
例えば冒頭1ー10小節間、ベートーヴェンが好む、急激なダイナミクスの変化が見られますね。至る所に見られる突然のフォルテはこの場合、悲痛な叫びと理解します。1ー3小節目、短3和音と、減3和音が使われています。決して楽しいムードではありません。そして、5小節目以降、実に優しさを伴う、平和なメロディーが流れますね。ところが、4拍目で突然フォルテッシモ+減3和音になります。これは、心理状態で言うと、突然、悲痛なことを思い出す、頭に現実が瞬間的に過ぎる、ようなアイデアとお考え下さい。
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