作品10としてまとめられた2曲は、スクリャービンの生前に出版された(作品2-3、7、10、12、14)なかで、「マズルカ風」ではない最初の即興曲である。とはいえ、左手の伴奏形に見られるように、この2曲にも未だ舞曲的な要素は残存しているように感じられる。
おそらく1984年に作曲されたこの2曲は、出版者ベリャーエフに送られ、スクリャービン自身の細かな校正の上で、翌年2月に出版された
■第1曲:嬰ヘ短調 三部形式。冒頭旋律の8分音符と三連8分音符の交替は、あたかもそこで即興的なテンポ・ルバートが行われているかのように聴こえる効果をもたらしている。旋律の音域は非常に幅広く、器楽的である。中間部分は嬰ヘ長調に転調し、左手の力強いオクターブによる、付点音符と三連符のリズムが支配的となる。
■第2曲:イ長調 両端部分の主題の骨組みは、上行する旋律に下行する旋律が応答する、というものだが、後半の下行の旋律に細かな連符が組み合わされ、即興性を生み出している。軽快な三連符による結尾ののちに現れる中間部分は、2拍ごとに行われる3度の上行と、伴奏部のタイによってヘミオラが形作られ、それがほぼ中間部全体を支配している。