このプレリュードで考えなければならないのはテンポです。Largoと記載があり、八分音符=72と書いてあります。このメトロノームマーキングが誰によって書かれたか、作曲家本人か、編集者か、またそのテンポが果たして現代のピアノに適切かどうか、等は定かではありません。
リャードフに限らず、フランツ・リスト、ベートーヴェン、多くの作曲家たちの作品のテンポというのはその作曲家独自のテンポ判断によるもので、作曲家の譜面を書く際の「癖」を知らなければなりません。果たして最終的にどのテンポが適切であるかは奏者に委ねられるところがあります。
このプレリュードの演奏には驚くほど遅いテンポの演奏もあり、八分音符=60位で演奏されるものもあります。ここからはピアノという楽器の特性の話になりますが、弦楽器や他の楽器のように、ピアノという楽器は、音をサステインすることができません。一度伴盤を下に下ろしてしまえば、どんなに押させ付けていても音は徐々に無くなります。
このプレリュードが、例えば八分音符=60位で演奏されたと仮定します。そうすると、メロディーラインには2分音符も書かれており、その2分音符が次の小節までタイで伸ばされている小節もあります。
このテンポ(60)で演奏した場合、2分音符1つだけでも4秒かかる計算になりますね。もちろんピアノは4秒くらい音は鳴り続けてくれますが、右手内声の8分音符は多くの場合3度で進行し、伴奏の役目を果たしています。
あまりにも遅いテンポでこのプレリュードを演奏すると、メロディーラインが内声によって伸ばされなくなる(実際には伸ばされていても伸びている音が内声によって聞こえなくなる)現象が起きてしまいます。まずこれが1つ。もう1つは、この内声が実に堅く聞こえてしまうことにあります。つまりは、横の流れを失い、縦割りの音楽になってしまいます。
果たして筆者はこのプレリュードを極端に遅いテンポで演奏はしませんし、推奨しません。少なくとも8分音符=90は欲しいです。
このプレリュードは悲しみの表現です。23小節目からmorendoがかかり、休むこと無く書かれている8分音符の内声は、25小節目で4分休符をはさみ、人が息絶えていく様子を描写しています。