ラフマニノフ :エチュード(練習曲)「音の絵」 第1番 Op.33-1 ヘ短調

Rakhmaninov, Sergei Vasil'evich:Etudes-tableaux Allegro non troppo f-moll Op.33-1

作品概要

楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:練習曲
総演奏時間:3分30秒

解説 (1)

解説 : 山本 明尚 (489文字)

更新日:2020年1月23日
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勇ましい行進曲調の練習曲だが、拍子記号は2/4、3/4、4/4、5/4、3/2と、ころころと変化する。左手の音形はF音から始まる一拍毎の下行を基調とし、オスティナート的な役割を担っている一方で、ソプラノの旋律は順次進行による息の長いものになっている。冒頭は全体に力強く、一方結尾は静けさに包み込まれている。それら二つの色彩が、楽曲全体に豊かな陰影を与えている。また中間部では、力強さと静けさが急激に入れ替わることで強い表現性をもたらすとともに、両端のコントラストを支える。

プログラム性についていくつか付言すると、ソ連の音楽学者ケールドゥィシは、冒頭部のバスの執拗音型がチャイコフスキーのオペラ《スペードの女王》第3幕第1場の伯爵夫人の亡霊の登場シーンに通ずると主張するとともに、終結部の和声から遠い葬送の鐘の音を聞き取っている。彼のこの論理によると、この練習曲の標題性の中心にあるのは、生と死の問題であることは間違いないという。しかし、下行音形で用いられている旋法の違いやそもそもの調性の違い(《スペードの女王》の当該部分はヘ長調である)から、この解釈を絶対視することは難しい。

執筆者: 山本 明尚