ショパン :ノクターン(夜想曲) 第5番 Op.15-2 CT112 嬰ヘ長調

Chopin, Frederic:Nocturnes Nocturne No.5 Fis-Dur Op.15-2 CT112

作品概要

楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ノクターン
総演奏時間:3分30秒
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解説 (2)

解説 : 林川 崇 (1451文字)

更新日:2019年1月31日
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《3つのノクターン》作品15

この3曲のノクターンのうち、第1番と第2番は1831年又は32年に、第3番は1833年に作曲された。楽譜は、パリ(M. Schlesinger, 1833)、ライプツィヒ(Breitkopf und Härtel, 1834)、ロンドン(Wessel, 1834)で初めて出版された。この曲を献呈されたドイツ人0005ピアニスト兼作曲家フェルディナント・ヒラー(1811-1885)は、ショパンの信頼する数少ない音楽家で親友の一人で、演奏会で共演もしている。あまり知られていないが、ショパンの《練習曲》作品10のイギリス初版表紙の献辞には、リストとならんでヒラーの名前が記載されており、1830年代のショパンの取り巻きのなかでは特に重要な人物である。

Nocturne Op.15 No.2

この曲もまた三部形式(A-B-A’-コーダ)を取っているが、シンメトリカルな第1曲とは違い、最初のAとBの間に推移部がおかれ、また、再現部のA’は短縮されるといった具合に、実際の構成は著しく対称性を欠いている。Aは、それぞれ8小節からなるa-a’-推移部に分かれている。書法としては、他の多くのノクターン同様、左手の伴奏の上で旋律が歌うという体裁をとるが、aとa’では、それぞれの楽節の最後で、弦楽四重奏を思わせるポリフォニックな動きがみられる(譜例1、第7~8小節)。

譜例1 第5~8小節、 aの後半

続く8小節の推移部では、溜息のような装飾を伴う半音階的な和声進行を経て、並行調である嬰ニ短調のドミナントに落ち着くが、すぐ主調のドミナントに戻り、Doppio movimento(倍の速さで)と指示された中間部Bが開始される。ここでは、右手の5連符のアラベスクの中に、オクターヴのメロディーの上声・下声、それと装飾の3つの声部がわざわざ書き分けられている。

譜例2 第25~28小節(B冒頭)

このようなリズムの記譜は、当時としては極めて珍しく、ショパンは音域の異なる音のまとまりを、異なる音色、強弱で引き分けていたということを暗示している。同じことをショパンは《24の前奏曲》作品28の第1番でも試みている。

最初の8小節では低音に、V度の主音であるcisが保持されている。33小節からは、長三度上のイ長調に転調し同じパターンが繰り返されるが、音域が上がるだけでなく、今度はV7の7度音であるDが保持されるため緊張感はいっそう高まる。演奏からは聞き取りにくいが、ここからは右手のリズムパターンが5連符の連続から付点16分音符+32分音符+三連符の連続に変化している(譜例3)。

譜例3 第33小節~36小節

この記譜の変化によって、各拍の後半が切迫し、より緊張感が高まる。こうした記譜の複雑さからは、自身の演奏の微妙なアゴーギグを可能な限り正確に書きとめよとする強い意志が感じ取られる。だが、紙に図形として写すことのできる情報は極めて限られているのであり、実際のショパンの演奏は、単に楽譜を音にする以上に多様なニュアンス、音色に富んでいたであろう。さて、39小節目で、イ長調の並行調であり、かつ主調の嬰ヘ長調の同主調でもある嬰へ短調のV度が響くと、右手は下降を続け、音楽が落ち着きを取り戻し再現部に入る。A’はAの時の半分に短縮されている代わりに、55~57小節目にかけて、華麗な装飾による見せ場が用意される。これが終わると、主和音のみで構成される5小節のコーダで曲は閉じられる。(林川 崇)

執筆者: 林川 崇

演奏のヒント : 大井 和郎 (3256文字)

更新日:2018年3月12日
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