ショパン :ノクターン(夜想曲) 第1番 Op.9-1 CT108 変ロ短調

Chopin, Frederic:Nocturnes Nocturne No.1 b-moll Op.9-1 CT108

作品概要

楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ノクターン
総演奏時間:5分30秒
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解説 (2)

解説 : 林川 崇 (1533文字)

更新日:2019年1月15日
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Nocturne Op.9 No.1

ショパンが折に触れて作曲し続けたノクターンの中で、最初に出版された曲集の第1曲を飾る作品。拡大された中間部を持つ三部形式で書かれている。最初の18小節で、情緒豊かで起伏に富んだ旋律が右手で歌われるが、ここで、ショパンは強弱やニュアンスの指示を事細かに書いている。例えば、3小節目では、右手が速い装飾的パッセージを弾くにも関わらず、スタッカートのある音とない音が書き分けられている(譜例1)。

譜例1 第3~5小節

また、第15、16小節では、左手の伴奏型の中の音を押えたままにして、ペダルを踏み変えても、響きが途切れないようにする、「フィンガー・ペダル」の指示が見られる(ベートーヴェンの《ピアノ・ソナタ》Op.31-2等に先例が見られる)。

譜例2 第15~16小節 各小節の左手4~6拍目のFがフィンガー・ペダル

19小節目からは、変ニ長調の中間部に入る。ここに入って32小節間は、延々右手がオクターヴでメロディーを弾くが、そこにはpppやsotto voceといった静けさを求める指示と、オクターヴによる前打音(第30小節)のような御し難いテクニックが同居しているため、美しく歌わせるためには、高度なコントロール能力が必要である。中間部にあたるこの32小節間は、a-a’- a-a’- b-a’- b-a’(リピート記号を使わずに書かれている)の二部形式で書かれている。a’で突然半音上のニ長調に転調したかと思うと直ちに元の変ニ長調に戻り、更にそこで突然音量がfになるという、分裂的な音楽の進行が特に耳を引く。このような遠隔調への転調は、当時の即興実践を反映した幻想曲や即興曲のようなジャンルで見られるものである。譜例3に示すような和声の動きは、理論というよりは、むしろ偶然的な手の動きの産物であろう。概して、このような鍵盤を這うような手の動きがショパンに独自の和声語法の源泉となっている。

譜例3 第23~26小節 第24小節目にニ長調への半音階的転調が見られる

続く8小節では、変ニ長調の主和音にcesの加わった、変ト長調の属七の和音の上で新しいテーマが出てくるが、旋律は第3音のない同じ分散和音の上で奏でられる(この空虚五度の伴奏は同じ和音のまま16小節間も続く)。完全5度の連続による伴奏は、ミュゼット(バグパイプ)を想起させる。さらに、その上で、フルートに似つかわしい旋律が演奏される。

譜例4 第51~54小節

2小節のブリッジを経て、もう1度同じテーマが少し形を変えて現れるが、フルート風の旋律は、今度はホルンの音型を模した二つの声部となって現れる(実際、ここにホルン五度を聴くことができる)。

譜例5 第61~64小節

フルート、ホルンは、いずれも田園風景を描く際に象徴的に使用される楽器であり、ミュゼットの和音は田舎の土俗的な雰囲気を出すためによく用いられる。つまり、この16小節は、束の間のパストラールをとみなすことができるのである。

田園風景過ぎ去ると、音楽は変ト長調に向かうように聴こえるが、第67小節から、伴奏型だけが繰り返される中で転調が生じ、主調である変ロ短調に戻り、最初のテーマの短縮された形での再現となる。79小節目後半のモチーフを何度も繰り返し、最後は突然感情が爆発したかのように、高いes-gesから始まる、強烈な不協和音(主音上に置かれた第5音下方変位の属九)による下降音型を経て、変ロ長調の和音連打で静かに終わるが、最後から2番目の音には倚音のgesがあるといった具合に、最後まで、どこか煮え切らないままである。

譜例6 最後の4小節。最初の小節でb・ces・aが衝突し強烈な響きを作っている。

(林川 崇)

執筆者: 林川 崇

演奏のヒント : 大井 和郎 (1564文字)

更新日:2018年3月12日
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