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ルトスワフスキ :ピアノ協奏曲

Lutosławski, Witold:Koncert na fortepian i orkiestre

作品概要

楽曲ID:1376
作曲年:1987年 
献呈先:Krystian Zimerman
楽器編成:ピアノ協奏曲(管弦楽とピアノ) 
ジャンル:協奏曲
総演奏時間:27分00秒
著作権:保護期間中

解説 (1)

解説 : 飯田 有抄 (1394文字)

更新日:2008年7月1日
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その生涯を通じ新古典主義、民族主義、前衛など多様な音楽スタイルを提示してみせたルトスワフスキだが、彼の唯一のピアノ協奏曲は円熟した創作期である1987~88年に作曲された。部分的に「偶然性」の要素や、調性感ある音響、クライマックスの形成、ルトスワフスキ自らが考案した「チェーン」形式を盛り込むなど、多彩なファクターが散りばめられており、繊細で高度な技術をもってして実現したピアノ協奏曲の傑作である。

全4楽章構成。楽章間は休みを置くことなく、アタッカで一気に奏される。第一楽章の導入部では木管楽器により、静かにざわめくような音響が提示される。アド・リビトゥムの指示があるこの導入部は、演奏者一人ひとりが指定された音型を各々反復することで生じる音群。ルトスワフスキがジョン・ケージの音楽と出会ってから60年代に多用した「偶然性」の技法の一端がここに見られる。しかしこの作品では、これ以上不確定性の要素は拡大しない。その後に続く濃淡豊かなオーケストラの音響や、細かなパッセージが織り成すピアノパートはいずれも、音高、リズム、拍子等がスコアに精緻に書き込まれている(現代音楽では、それらが矢印や図形などで記されることが多い)。ルトスワフスキ自身もこの点について強調しており、次のように述べている。

「この作品のどこにも即興はない。演奏されるべき全ての音は詳細に書き記してある。それらは演奏者によって正確に再現されなくてはならない。アド・リビトゥムの部分と伝統的な書法による部分の基本的な違いはというと、前者においては演奏者たちが、共通した時間的区切りを一切持たないということである。つまり、個々の演奏者は独奏状態にあり、他の演奏者と調和しない。これによってある特定の効果、つまり、豊かで不規則なリズムによる柔軟なテクスチュアが生じるのだ。これは他の方法では得られない。」※(翻訳筆者)

第二楽章ではピアノとオーケストラが戯れのように掛け合いを繰り返す(モト・ペルペトゥオ)。後半にはカデンツァのような長いピアノソロの後、弦楽器により突如としてE-Gis-Hの調三和音の響きが提示される。この三和音は再び、静謐にして厳しい音響へと消えていくために印象深い。続く第三楽章の冒頭でもまた、長いピアノソロが独白のように続くが、後半には圧倒的な厚みのあるトゥッティ(全楽器が一度に奏する)が起こる。第四楽章では、バロック音楽のシャコンヌ、すなわち変奏曲の形態をとっている。またこれは、ルトスワフスキ自身が生み出した「チェーン形式」という技法が仕組まれている。ここではオーケストラの奏でるレイヤーとピアノが織り成すレイヤーが存在する。それぞれのレイヤーは、細かなセクションに分かれるが、そのセクションの始まりと終わりは互いにオーバーラップして起こり、同時に終始することはない。両者が重なり、かみ合うように、つまりチェーンが絡み合って構成されるようにして、楽曲が進行していくのだ。このチェーンの両レイヤーは楽章の終結部で初めて一つに収斂し、やがてオーケストラを背景としたピアノの力強い叙唱があり、続くコーダで締めくくられる。

ザルツブルク音楽祭からの委嘱作品であり、初演は1988年8月19日、ルトスワフスキ自身の指揮、オーストリア放送交響楽団、クリスチャン・ツィメルマンのピアノで行われた。演奏時間はおよそ27分。

執筆者: 飯田 有抄
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