1999年3月17日、日本現代音楽協会の委嘱で、ヴァイオリン塚原るり子、クラリネット板倉康明、ピアノ長尾洋史により初演。
トリプレッツ(三つ子)という題名のこの曲は、3つの楽器が協力して1本の紐のようなラインを描き、それによってできる形状の面白さや、また時にはそれぞれの楽器が各々に異なるキャラクターを主張し、乱立共存する面白さがあります。作曲者である北爪道夫氏が「動くメリーゴーランドに乗り降りするように」と例えられたように、自分の弾き初めや弾き終わりを、相手のフレーズの途中から滑り込むように受け渡しすると、滑らかな紐状の曲線が描けるのではないかと思います。
以下は、北爪道夫氏による特筆すべき留意点を記載します。(太字アルファベットは全音楽譜出版社「トリプレッツ」譜面記載の練習番号)
・Hの2小節前からダイナミクスは小節毎に ff→ pp→ ppp。Hでは特に、手前のCl.ソロ(pp)より抑制されたTutti(ppp)を狙っています。ここは大事な瞬間で、響きのブレンドがバランス良く纏まる必要あり。Pfはpppが入っていますが殆ど弾かない方が良いのでは?
・ Iの108からのVn.はJの117までテンションを保つsempre ff。
・Fの後半Pfはcresc.〜 f、そしてGは sub.p (Vn.は fのまま )。
・Kは3者3様、Pf は con Ped.でレガート。
・N手前からP 1小節目まで、ひとつの音楽に。特にVn.は、よりソリスティックに!
・冒頭3小節目のVn.はdim.が絶対に欲しい。その後に何度かあるVn.のa piacere は、激しくというより、表現を大胆に過剰に。
(全音楽譜出版刊《トリプレッツ》巻頭、北爪道夫氏より)
複数の人が、同じ空気のなかで同じ話題について同じ言葉で発言したとしよう。この時、全神経を集中して相手を模倣したとしても、厳密な意味で「同一」にはなり得ない。お互いに近づこうとする意志をもつことによって、逆に、それぞれの個性が際立って浮き彫りになってゆく・・・極めて単純で当たり前の話だが・・・この作品の出発点はここにある。この作品における登場人物は3人であるが、タイトルはトリオではなく「三つ子」を表す《トリプレッツ》とした。「3」はまた、様々な社会性への第一歩であり、無限の宇宙への拡がりの可能性を示す最初の数字でもある。発音原理の異なる3つの楽器によるアンサンブルである。
私は、この作品と同様の発想により、《ペア・ワーク》と《ツインズ》を書いている。 北爪道夫
※作曲者北爪道夫氏の許可をいただいて引用・転載を行っています。