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ミゴ : ピアノ・ソナタ 第1番「ポロニア」

Migot, Georges : Première Sonate pour le piano "Polonia"

作品概要

楽曲ID: 7502
作曲年:1939年 
出版年:1947年
初出版社:Alphonse Leduc
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ソナタ
著作権:保護期間中

解説 (1)

解説 : 西原 昌樹 (2289 文字)

更新日:2026年3月4日
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ミゴは生涯にピアノソナタを3作書いた。生前に出版されたのは1番のみ。2番と3番は未刊のまま手稿譜のみが現存する。3作共、ミゴのピアノ作品中、技術と内容の両面で屈指の大作としてそびえ立つ。それぞれに被献呈者を持ちながら、初演の記録が確認されないのも他の作品とは異なる。秘曲の秘曲たるゆえんであろうか。ピアノソナタ第1番は第二次世界大戦初期の1939年12月に書かれ、「ポーランド」のラテン語名「ポロニア」の副題を持つ。言うまでもなく、1939年9月のナチスドイツによる侵攻に蹂躙されたポーランドに捧げる音楽である。標題音楽であっても、写実性より抽象性の勝った曲を書くことを常としたミゴが、直近の凶事を契機に創作するのは異例中の異例のことと言わねばならない。壮年に差し掛かったミゴにとって、20数年ぶりの大戦勃発がどれほどの衝撃であったかを示していよう。ミゴは、戦争に青春を奪われた人であった。陸軍入隊から第一次大戦への出征、前線での戦闘と負傷、長い療養、丸2年に及ぶ松葉杖でのリハビリを経た社会復帰まで、20代の半分以上が費やされた。ミゴは戦争の過酷な実相を、身をもって、嫌というほど知っていた。戦後出た「世界人権宣言」の有名な一節「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害」こそ、すでに1939年当時のミゴ自身の慨嘆にほかならなかっただろう。そのミゴが本作にどれほどの思いを込めたか。実演機会の多寡は措いて、現代の私たちはまず、本作の存在自体を謙虚に受けとめる必要がある。ギイ・サクルは本作について、プロコフィエフやカバレフスキーらの作品同様、真の「戦争ソナタ」(sonate de guerre)と呼ぶにふさわしく、歴史的証言としての価値を持つと評した(Sacre, Guy. 1998. La musique de piano T.02. Paris: Robert Laffont)。ミゴとプロコフィエフは共に1891年生まれの同い年である。

ミゴには器楽用の「ソナタ」が多くある。新古典主義にくみしなかったミゴのソナタは、因襲的なソナタ形式にとらわれない。本質的にフレンチバロックの組曲に近い自由な精神で書かれたものである。本作も、外観こそ急緩急の3楽章制を採るが、ソナタ形式の枠組に無理に当てはめて論じても得るところは多くない。第1楽章〈決然と、力強く〉(戦場に向かう兵士のように)Décide, bien marqué (comme soldats qui vont au combat) 4/4拍子。勇壮と暴虐、破壊と虚脱。武器を手に戦場に立った経験者の書いた、仮借ない、なまなましい音楽である。ミゴが、意図する描写対象をここまではっきりと特定して標語に含めたのは、少なくともピアノ曲にあってはこれが最初で最後のことであった。一転して、標語の付されない第2楽章〈アンダンテ〉Andante 3/4拍子。不穏な底流の上に、つかの間の静寂と安息が訪れる。第3楽章〈終曲。活発に、悠然と〉(傲岸で精力的な戦場のコラールのように)Final. Allant, avec ampleur (comme un choral de guerre, altier et énergique) 2/4拍子。どんな状況にあっても、生者は前を向かざるを得ない。唐突に、犠牲者への弔慰、服喪の儀式が差しはさまれる(Choral et funèbre)。中盤過ぎに現れる高音部への執拗な傾斜の、叫びとも祈りともつかぬ痛切な響きが胸に迫る。高弟のマルク・オネゲルによると、このソナタの草稿には当初「死の軍団の者たちへ」(Légion de la Mort)との献辞があったが、最終的にピエール・ブレシー(Pierre Brécy)への献呈としたという(Honegger, Marc. 1977. Catalogue des œuvres musicales de Georges Migot, Strasbourg : Association des Publications près les Universités de Strasbourg)。献呈先の変更一つにも、作曲者の心の揺れが見て取れる。全体を通観してあらためて思うのは、ミゴ自身、創作時点では、世に出すかどうかもわからぬまま、何かに衝き動かされるように筆を走らせたのだろうということである。後世の私たちにしても、なまなかな向き合い方では演奏も鑑賞もかなうまい。それでも、知り得た以上は、作品から目を背けることはすまい。この曲に描かれた現実が地上からなくならない限り、折々にこの曲を手に取り直し、未来に伝えていかねばなるまい。なお、ミゴは晩年の1963年、ド・ゴール政権下の文化相アンドレ・マルローの要請に応え、プロテスタント信者の代表として、二度の大戦の犠牲者を追悼する《イン・メモリアム》(In Memoriam)を作曲した。同じく、マルローの呼びかけで、カトリックを代表してメシアンが《われら死者の復活を待ち望む》を、ユダヤ教徒を代表してミヨーが《戦没者のためのオード》(Op. 408)を書き、信仰の相違を超えた平和への願いが、フランスから全世界に広く表明されることとなった。

執筆者: 西原 昌樹

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