大変美しい曲ですが、多くの注意点があります。基本的にはポリフォニーの傾向が強く、故に各声部をリスペクトしなければなりません。まずはそれらの注意点からお話しします。コツは、1つの音符から棒が2本出ている音符に注目して、大切に扱うことです。1ー4小節間、左手バスの音は16分音符と付点8分音符の両方を兼ねている音符が各小節に2つある事をご覧頂けるでしょうか?
これらの音符は、「切らずに伸ばす」という目的もありますが、同時に「強調する」という目的もあります。1ー2小節間、左手にはもう1つ棒が上を向いている音符があり、8分音符で書かれていますね。バスと、その音符で2つの声部とします。それにメロディーラインを足すと、3声ですね。3ー4小節間、右手の音符が2声になりますね。そうすると3ー4小節間は4声と考えます。
メロディーラインは最も重要なので、この声部が最も人の耳に届くように演奏するのですが、次に重要なのはバスの声部です。そして左手8分音符で書かれてある、棒が上に伸びている音符と、3ー4小節間に現れる右手の音符で、棒が下に向いている音符は最も音量を小さくします。
1つの音符から2本棒が出ているからと言っていつでも強く弾くとは限りません。例えば、4小節目の2拍目、左手の8分音符であるAIsは、その直前に書かれている1拍目のHからのレゾルーション(和音の解決)と考えますので、このAisはHよりも弱く弾きます。
このように、音符が多声になり、1つの音符から2本棒が伸びている音符は特に注意しますが、前例のように同時に和音進行等も鑑みます。
36ー37小節間、完全な4声体ですね。ソプラノ、アルト、テノール、バスとします。例えば36小節目で、この時、ソプラノとアルトが同じ音量だったらどのように人の耳に届くでしょうか?Dis H Fis E H Cis と届いてしまいます。しかし実際は、Dis H E H であり、FisとCisはアルトの音ですので、これらはppで演奏し、人の耳には、Dis H E H ときこえるように演奏します。このような声部の独立が必要になります。それが4声体で書いてある理由であります。完全に人の耳にそれを聞かせるのは無理があるかも知れませんが、学習者がそれを知って、意識して弾くことで演奏は変わってきます。
次にテクニック面に関してお話をします。オクターヴさえ届かない、手の小さな学習者の方は、例えば7小節目2拍目の右手、9度を弾くのは不可能です。このような箇所は色々と工夫をしなければならないのですが、この7小節目2拍目の右手9度を弾くには2つ方法があります。1つは、アルトのDを右手で押さえておき、左手で、一番上のCisを弾き、素早く下のGisに手を移動させる方法です。これはかなり忙しい動きとなりますので、慣れが必要です。この移動のために時間を余計に食ってしまい、そこだけゆっくりになってしまうようであれば、もう1つの方法を取ります。
その方法は、右手1拍目のDを弾いた瞬間にペダルを変え、そのままペダルを伸ばして2拍目を弾きます。そうすることでアルトのDは4分音符分伸びてくれます。ただし、1拍目の左手の、AとFisがそのペダルに入り込まないように(残らないように)します。何度か練習してみて下さい。
次にペダルの注意点についてお話しします。基本的に、和音毎(ごと)に、ペダルを変えていけば良いので、基本的には1拍ずつペダルを変えていけば良いです。ただし気をつけなければならないのは非和声音が入ってくるところです。24小節目以降をご覧下さい。24小節目1拍目は、H D Fis、2拍目はFis Ais Cis E という和音ですね。ところが1拍目には右手にCisの非和声音があります。そして2拍目には、Hの非和声音が同じく右手に出てきますね。
これらの非和声音を含ませてペダルを踏むと濁りが生じます。これらのような状況下では、非和声音が和声音に解決された後にペダルを踏みます。つまりは、非和声音をペダルに含ませないようにします。そうすることで、濁りのない綺麗な和音の進行を演奏することができます。
次が最も難しい課題となるのですが、この曲の冒頭にも書かれてあるように、この曲はルバートを要します。アジタートにならずに、しかし重たくならずに、自然な流れを作らなければなりません。これは担当の先生の助言を聞いたり、動画などをご覧になり、自然な流れをつかんで下さい。コツとしては、4小節単位で1フレーズと考え、4小節を一気に弾くようにします(一気にというのは、速く弾くということではなく、1つのものとして扱うという意味で、途中で流れを止めないようにするという意味です)。