作品概要
解説 (3)
演奏のヒント : 杉浦 菜々子
(421 文字)
更新日:2024年3月11日
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演奏のヒント : 杉浦 菜々子 (421 文字)
気持ちよく続くバルカロールのリズムを背景に聴きながら、美しく素朴な歌が歌われます。右手の歌は、朗々と歌うというよりは、非常に親密に優しく語りかけるように歌われることが適切です。これはこの曲が収められている「音の栞」や他の三善晃氏の作風から感じられることによります。長い音を、柔らかく伸びの良い音で演奏しましょう。中間部は、和声の緊張と緩和を十分に味わいましょう。中間部になると左右の関係性は強くなります。左手の和声に誘発されて右手が反応し、全体の響きを作ります。左が伴奏、右がメロディだからといって、左右が独立してそれぞれにならないように、全体の調和を聴きましょう。
ペダリングは非常に繊細さが要求されます。どれくらい足に重さをかければ響きがどれくらいつくか耳を鋭敏にし、様々なピアノや場所で実験してみてください。補助ペダルを使用の方もぜひハーフペダルや細かい踏み分けにもチャレンジしてみることで、響きを作り出す楽しさを感じてほしいと思います。
演奏のヒント : 大井 和郎
(505 文字)
更新日:2024年6月17日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (505 文字)
この曲の演奏のヒントは主に2つです。1つは、左手の伴奏形のシェーピングの問題で、特に1~2小節間、メロディーラインがまだ始まらない時の左手は、平坦にならないように、2小節目の1拍目のFis D に向かうように、そしてそこから衰退するように弾きます。7~10小節間、左手の伴奏形のトップが、Cis D Dis E と半音階的進行で上行します。少しずつテンションを高めるようにします。9~10小節間は、今度は裏拍のFis Gis H A を意識するようにして下さい。動く声部は最も人の耳に届きやすい声部ですので、奏者側も意識するようにします。
もう1つはメロディーラインの話です。3小節目、1拍目と2拍目のメロディーには、Eが2つ並んでいます。これが、5小節目や11小節目(Gis2つ)にも同じ音が並ぶ分があります。この時、同じ音2つでも、後者(2拍目)の音をとても大切に扱うようにします。注意点としては、2拍目にアクセントを付けるのでは無く、かといって1拍目と同じように弾くわけでもなく、2拍目は、もう言われなければ判らないほど少しだけ躊躇して打伴をするように弾きます。大切なものとして丁寧に弾くように心がけます。
解説文 : 熊本 陵平
(1896 文字)
更新日:2024年11月28日
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解説文 : 熊本 陵平 (1896 文字)
楽曲構造は三部形式である。
序奏1から2小節
A[主題提示](3から10小節)
B[cis mollによる主題展開](11から18小節)
A1[主題再現](19から26小節)
コーダ(27から30小節)
序奏の四分音符と八分音符による動きは舟を漕ぐ動作と波の揺れを表現しており、デュナーミクもmp(メゾピアノ)から開始されるため、小波の上を穏やかに揺れている様子が想起される。冒頭1小節で四分音符と八分音符で主調A durの明るい長三和音、主和音Ⅰの響きが得られることから春の穏やかな、天気の良い日などのイメージが連想される。
また、タイトルは舟歌ではなく舟「唄」であり、作曲者があえてこの「唄」にしたのは真意不明ではあるが、唄とは民謡や童歌などを歌う時に用いられることが多くあり、そうした雰囲気の、少し口ずさむような軽やかさがあるのではないかと推測する。楽曲中で大きく響かせるような厚みのある和音やとても低い低音がなく、全体として中音域にまとまっていることもこの推測を後押ししている。
主題の旋律は同音が付点四分音符や四分音符、またはそれらをタイで結んだものなど音価が長い形で反復されるのが特徴で、これは歌唱的ニュアンスが強いことを表している。主題を構成する和声進行は、Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰというシンプルなものであり、楽節Aにおいてはこの和声カデンツを2回反復しながら旋律線は変奏されている。1から8小節間、3拍と6拍の属音eの八分音符は保続音である。和声や旋律は少しずつ変わっていくものの、こうした保続音やリズムによって持続的な舟の動きを表現しており、このような構造から極端にテンポが伸び縮みさせるような表現は不自然に感じやすいだろう。
伴奏部を見てみると、時折1と3拍を繋いだり、逆に3と6拍を繋ぐと対旋律が見られる。最も顕著な箇所は主題旋律線の終わり、9から10小節間での3と6拍で、これをラインとして繋いでみると、fis→gis→h→aというふうに対旋律が現れる。また4から5小節間、7から9小節間の1と3拍は順次進行のラインを見出すことができ、このように横の繋がりを意識すると、より立体的な表現が可能となる。このように伴奏部や内声部で順次進行によるラインを探すことは、この作品を演奏するピアノ学習者たちにとってみれば、より本格的で大規模なショパンのピアニスティックな作品においての多層的構造を理解する足掛かりとなり有意義なことだと考える。
中間楽節Bは新たな主題提示ではなく、Aの主題をcis mollに転調して、さらに展開していく楽節である。このため、基本的な特徴は変わらないことを考えると、ここで劇的に音楽が変化したというより、同じ流れの中で色彩感覚として翳りを感じるといったニュアンスだと考える。
16小節1から3拍の和音はドリアⅣ7である。ドリアⅣは歴史的にその成立過程から、短調のⅣ→Ⅴ進行において音階上第6音と導音との間に起こる増2度進行を避けるためのものであることから、よりフレーズとして横の流れが強調されている。またドリアⅣ7の特徴として、構成音第3音と第7音で減5度(或いは増4度)の不協和音程が形成され、固有和音のサブドミナントでは感じられない緊張感がある。こうした和声の緊張と、やがて主和音によってそれが解決される様をフレージングとともに意識した表現がなされると良いだろう。
25小節、開始音fisは倚音であるので、24小節から26小節にかけて長いスラーは存在するものの、この倚音をほんの少しだけ強調(意識するだけで良いかもしれない)することで、長いスラーが棒読みのように平坦な表現が避けられる。ちなみに26小節の開始音hも同様に倚音と捉えることはできるが、こちらはⅢのセブンスコードと捉えることもできる。このようなセブンスコードは短三和音がベースではあるが、根音を除くと長三和音の明るい響きに転じるので、構成音の配置によっては明るく響くこともある。このことから、26小節は25小節よりもやや明るい色彩を持って表現するなど、細やかなニュアンスを表現することが可能である。こうした長いスラーにおいて、一本調子にならないように、非和声音の性質、和音の明暗差、和声の機能、音程の響きなどから、より微妙な表情を浮き彫りにすることは、ショパンなどの多くのロマン派の作品に見られる長大なスラーの解釈にも役立てられる。
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