平吉 毅州 : 子どものためのピアノ曲集《南の風》 ロバート・シューマンの夢を見た イ長調
Hirayosi, Takekuni : South Wind I Dreamed of Robert Schumann A-Dur
作品概要
解説 (1)
演奏のヒント : 杉浦 菜々子
(593 文字)
更新日:2025年2月19日
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演奏のヒント : 杉浦 菜々子 (593 文字)
シューマン のユーゲントアルバム(子どものためのアルバム) 16曲目「初めての喪失」にインスパイアされた作品です。冒頭のモチーフは、原曲そのままに模倣されています。原曲はホ短調、4分の2拍子、テンポはNicht schnell.(=速くなく)に対し、この曲はニ長調、2分の2拍子、「流れるように」2分音符=69~76です。原曲を弾く時よりも、気持ちゆったりとしたテンポ感になると思いますが、速さそのものよりも、原曲の演奏時に起こる焦燥感が消え去り、現実的な悲しみや涙が、夢の世界という非現実の中で別の感情で立ち上ってくるといったイメージを大切に、やわらかな音で自然に演奏されるとよいと思います。A-B-A’の3部形式で、BはPoco più mosso(少し今までより速く)、左手がメロディーです。Bの5小節目からpoco accel.になり、テンポを上げて一気にfに向かいます。そこでは、左手で冒頭のモチーフが原曲同様の音「ソ」から奏されます。まるで、現実に引き戻されたかのようです。その後、右手で涙が落ちるような2音の下行形のモチーフが4回奏され、A’に至ります。A’の7小節目では原曲同様「ソ」からのモチーフが倍の音価で拡大形として、夢想的な中で登場します。曲の最後は、一度の和音で終止せず、解決していません。夢と現実の境界線を引くことなく、音楽も幻の中に溶け込んでいくようです。