アルカン, シャルル=ヴァランタン :三重奏曲 第1番 Op.30

Alkan, Charles-Valentin:Premier Trio Op.30

作品概要

作曲年: 年 
出版年:1841年 
献呈先:M.James Odier
楽器編成:室内楽 
ジャンル:★ 種々の作品 ★
総演奏時間:20分00秒

解説 (1)

執筆者 : ピティナ・ピアノ曲事典編集部 (1639文字)

更新日:2010年1月1日
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室内楽史おいて19世紀はハイドンやモーツァルトが活躍した18世紀に比べに実りの少ない時期とされている。もちろん、ブラームス、メンデルスゾーン、シューマンといったドイツ、オーストリアの作曲家の室内楽作品は比較的認知度は高く、今日でも演奏される機会は多いが、フランスの室内楽は歴史的にもあまり認知されていないばかりか演奏されることはごくまれである。フェティスやルイーズ・ファランク、ショパン(もっともショパンはポーランド人だが)のものがわずかに知られているが、とりわけ1810年代生まれの大ピアニストたちの室内楽作品のなかには急進的なピアニズムと結びつき、独特な色合いを帯びた魅力的な室内楽が少なくない。アルカンのこのトリオや《協奏的第二重奏曲》(c.1841)、チェロ・ソナタ(1857)は、いずれも冒険心溢れる興味深い19世紀の室内楽作品の一部をなしている。早くから室内楽活動をともにした友人のチェリスト、ジェーム・オディエに献呈。

□第1楽章 ト短調 十分にゆったりと/Assez largement

□第2楽章 ト短調 とても速く/Tr ès vite

□第3楽章 ト長調 ゆっくりと/Lentement

□第4楽章 ト短調 速く/Vite

第1楽章から第4楽章までがト長調、またはト短調で書かれており、前作の大胆な手法で書かれた室内楽曲、《協奏的大二重奏曲》とは趣向を異にしている。

□第1楽章は開始の3小節間で主題を提示するが、この3小節間に現れた3つの動機が何度も変形され、組み合わされ、重ね合わせていく。この「重ね合わせ」の手法はすでに何人かの作曲家、とりわけベルリオーズによって用いられていたが、アルカンはこれを更に押し進め、複雑に、かつ自然な形で動機による伽藍を築いた。再現部で第1主題と第2主題を重ねて再現するという方法は、この時代の作品の中では珍しく、興味深い。「重ね合わせ」手法は1847年の大作《大ソナタ 作品33》において標題の観念と結びつき、表現法の更なる段階へと進むことになる。

□第二楽章は「Tres vite 極めて急速に」という速度表示で、ピッツィァートによる軽快で歯切れの良い主題の提示で始まる。やがてなだらかな主題が流れを作り、冒頭主題に対置される。この2つの要素が交代しながら最後はピアノの急速なアルペッジョによるカデンツで終わる。しかし、最後の主和音は決して強く短くはならず、息の長い和音で終わる。これは次の緩徐楽章へのつなぎを考慮してのことであろう。《大ソナタ 作品33》にも見られるように、楽章同士の連結にアルカンは注意深い。

□第3楽章はハイドンの緩徐楽章を思わせる一方でユダヤの宗教的な雰囲気に包まれ、弦楽器とピアノ独奏が対比される。冒頭からヴァイオリンがヴィオラの声部をも受け持ち、やがて主題がトレモロによって誇張されるが、このときヴァイオリンは重音によるトレモロで一連のフレーズを演奏することを強いられる。しかし、敢えて分厚い響きにすることで3人の奏者でより大きな弦楽アンサンブルのような響きを現出し、独特の音響世界を開拓しようとするアルカンの熱意が伝わってくる。

□第4楽章のピアノは、すべてユニゾンで動く。ヴァイオリンとチェロはむしろ伴奏を受け持つ傾向にある。1839年頃に出版された《3つの大練習曲》の第3曲の無窮動と同じ発想によっている。ショパンも前奏曲やソナタでユニゾンによって1曲を仕上げたが、こうした無窮動はピアノ書法一つの流儀として当時のピアニストに認識されていたようである。ユニゾンであるゆえに、ピアニストはかなりの速度で演奏しなければ和声感を響かせることが出来ないという点で演奏は至難であるが、その推進力は熱狂的である。

この作品を通してポイントとなるのは動機の扱い、響きの開拓、それからユニゾンという着想まで、多くの試みがなされているという点であり、このトリオの魅力はそうしたアルカンのほとばしる創作意欲と研究心にある。

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