作品概要
解説 (1)
演奏のヒント : 杉浦 菜々子
(748 文字)
更新日:2025年10月23日
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演奏のヒント : 杉浦 菜々子 (748 文字)
全体を通して美しいレガートが求められる作品です。特に左手の伴奏形について作曲者自身が「テヌートの音をやや長めに」と記しているように、その音価の扱いが曲の推進力と深い関わりを持っています。左手の2拍目の音は、右手が大きなフレーズで前へ進もうとする力に対して、わずかに後ろへ引き寄せるような働きをし、この押し引きが音楽に緊張感を生み出しています。そのせめぎ合いこそが、この曲に「伝説」という言葉を思わせる奥行きを与えているのでしょう。
16小節目や21小節目の語り始めは左手が先行し、その後右手が加わります。両者の響きが自然に溶け合い、美しくハーモニーを形成できるよう、耳を澄ませてバランスを整えたいところです。25小節目からは変ホ長調へと転じ、冒頭のハ短調とは異なる趣が示されます。メロディの核である付点四分音符の進行が順次進行に変わり、小波のように繊細な動きを見せる部分です。ここでは細やかなニュアンスを大切にし、音の一つ一つに気品を込めて、崇高な響きとして表現することが望まれます。
さらに41小節目、2カッコの部分ではバスに「f」が与えられ、深く息を吐くような分厚い響きが必要です。右手の音型と重なり合い、深い響きが生まれます。その後、ディクレッシェンドを伴いながら次第に冒頭の静けさへと引き寄せられていきます。この収束の過程は、時間の流れを超えて、再び原点に戻るような感覚をもたらします。
全体として、空間的な広がりと時間的な悠久さを併せ持つ作品であり、演奏にあたっては、静かに、しかし、しっかりと「語る」ことが必要であり、豊な響きを意識することが大切です。海の壮大さと「伝説」という言葉が喚起する想像力の深みを重ね合わせ、聴き手の心に広がる情景を描き出すことが、この曲の表現の核となるでしょう。
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