平吉 毅州 :ピアノのための《悲歌》
Hirayosi, Takekuni:Elegy
解説 : 長井 進之介 (472文字)
沖縄県全域および、鹿児島県奄美群島の沖永良部島と与論島に伝わる、「ド・ミ・ファ・ソ・ シ・ド」の5音で構成される音階である「琉球音階」より導き出された、上行音型を核としたモチーフが、ピアニスティックな技法、色彩豊かな和声と無調の響きが交代しながら展開していく。しかし、我々が「琉球音楽」と聞いてイメージしやすい、陽気さやなつかしさといったものはこの曲からは一切排されている。メロディラインや明確なリズムパターンなども極力使用されず、琉球音階のモチーフを様々に変形させながら、《悲歌》というタイトルが示すように、悲しみや痛みといった感情を増幅させて展開していく。こうした書法は、どこか新しい作曲技法を開拓していこうとする姿勢も見受けられるが、この作品は1997年という平吉の晩年に書かれた作品であり、意識的か無意識的かは不明だが、曲の中には “死” に対する恐れや苦しみといったものも含まれている。また、調の曖昧さとモチーフの変化の連続によって “無限” 性が創り出されており、人間の内面や精神世界を深く抉り出していくかのような面も感じさせる。
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