<憂愁>
普通に聴くとただ単なる綺麗な曲に聴こえ、カノンであることすら忘れてしまう美しい曲ですが、 この曲は、実は2声X2のカノンで作られています。2声X2というのは2つの声部がカノンを作るのではなく、2声の曲に、もう一つ2声の曲がそれを1小節遅れで追いかけるというまさに天才技がここにあります。
流れ:24小節目までは、12小節単位で一つのフレーズがあり、それが単にもう一度繰り返されるだけにすぎません。故に1度目と2度目は同じように演奏するのではなく、何かしらの変化が欲しいところです。33小節目から新たなフレーズが始まり、それがこの曲のピークポイントである41小節目に導きますので、そこまでの流れには緊張感を保ち、41に向かうことを意識してください。47小節目は41小節目と全く正反対の心理状態になります。この部分の演奏法については後述します。
この曲は、ポリフォニーの秩序を厳格に守らなければなりません。休符も厳格に守ります(例えば15小節目のような休符)。余計な音が残ったり、伸びるべき音が切れたりしないように細心の注意を払います。そうなると、どうしても左右の手で声部を入れ替えたりする作業が必要になります。手を入れ替えるとついつい、不必要な音が残ってしまったり、逆に切れたりしますので、十分気を付けてください。
さてこの曲はmoderatoとしか表示されていませんが、やはりある程度のルバートは必要になります。Bセクション(33小節目)に入ったら、41小節目のピークに向かいますので、徐々に動きをつけ、緊張感を保ってください。41-43まではペダルを踏みっぱなしにして全ての声部を伸ばしますが、44小節目にペダルマーキングが書いてありますね。ここでペダルを一度離します。ただし、ここに書かれある、伸ばすべき4声の声部は指で押さえておいた上でペダルを変えてください。つまり、ここのセクションに書かれてある4分音符はペダルに入れてはいけません。2分音符のみを伸ばします。ペダルを離したとき、決して4分音符が残らないようにしてください。47-52も同様です。
この曲はある種の「寂しさの表現」が必要になると思います。Aセクションのフレーズの終わりは2種類あり、半終止で終わる力つきる様子、または平行調であるAs-durで終わるメランコリーの中の些細な暖かさ、を表しています。決して大きな音にならないように、またフレーズの終わりはPPで消えていくように終わってください。