アンダンテ、変ホ長調、4分の2拍子
A-B-A´という三部形式を取る。変ホ長調で始まるA部は、ゼクエンツによる遠隔調への転調を主眼としている。6小節の主題が変ホ長調で幕を開け、左右の声部交換を伴って反復されると、変ロ長調の三和音へと半終止する。この三和音が導くのは、同主調である変ホ短調の主題提示であり、さらにはその平行調である変ト長調へと転じる(第17小節)。ここから、異名同音で読み替えた嬰ヘ短調を経てニ長調へ、そして三度調関係を用いた変ロ長調への転調を経て、A部末では主調に完全終止する(第33小節)。
再度現れた変ホ長調のカデンツに導かれて、B部が突然に変ホ短調で幕を開ける(第38小節)。B部は、32分音符のパッセージによる動きとデュナーミクの点で、主部とコントラストをなす。このB部内も三部形式となっており、変ト長調と変ニ長調による弱音の中間セクションを挟んでいる。
その後、第71小節で冒頭主題が回帰するとA部の再現となるが、これはA部が単に回帰したのではない。冒頭主題が1オクターヴ低く回帰する点のみならず、変ハ長調や変イ長調/変イ短調へと転じる調性プランの点でも、冒頭のA部と再現されたA´部は異なっており、同じ主題を用いつつ単なる反復を避けるというシューベルトの形式上の試みが見て取れる。