アレグロ・モデラート、変イ長調、4分の3拍子
ソナタ形式を取る。分散和音のユニゾンによる第1主題が変イ長調で幕を開ける。続く弱音の推移部(第11小節~)がドッペルドミナント(属調の属和音)で半終止となると、第19小節から弱音のまま属調(変ホ長調)で第2主題が穏やかに提示される。第2主題は反復された際、mfで伴奏音形の音価が小さくなるため、動的になる。
展開部で特筆すべきは、提示部での両主題ではなく、推移部の素材を用いて様々な動機操作が行われる点だろう。そして再現部では、先のピアノ・ソナタ3作品のように下属調ではなく、主調で冒頭主題が回帰する。第71小節の転調を経て変ニ長調で推移部を再現することにより、第2主題が主調で導入される。
これまでのピアノ・ソナタと比べて、本楽章は規模が小さい上、提示部における度重なる転調も控えられている。動機素材や転調を必要最低限しか用いない作曲法は、あたかもシューベルトが、後に定式化される教科書通りの形式による創作を試みているかのようだ。