アレグレット、ホ長調、4分の2拍子
ABA’B’という形式を取るが、B部が属調で提示され、主調で再現されることから、「展開部のないソナタ形式」と称されることもある。確かにシューベルトは、属調で提示したB部を主調で回帰させる緊張-弛緩という調原理を本緩徐楽章でも採用している。その一方で、B部では様々な主題が提示され、転調が繰り返されるなど、書法は明らかにソナタ形式楽章と異なっている。
シューベルトが好んで用いたダクテュロス(長短短)のリズムを持つ旋律で始まるA部は、抒情的なホ長調を取り、8小節の楽段が繰り返される前半部と、5小節の旋律が繰り返される後半部から成る。A部には一貫して内声に十六分音符が用いられているが、急にフォルテで現れる和音(第30小節)が十六分音符の流れを止め、新たな形式区分(B部)が幕を開ける。この和音に始まるロ長調のフレーズが2回提示されると、嬰ト短調のセクションが続く(第38小節)。このセクションが素材的にA部に由来することは、十六分音符の伴奏が用いられる点のみならず、ダクテュロスを用いた旋律という点から理解できる。第30~48小節が異なる調で繰り返されると、第66小節において新たなセクションがロ長調で現れる。このセクションは、左手の旋律および三連符による右手の伴奏の両者とも、新出の動機素材が用いられている。第82小節では三連符を内声が引継ぎ、A部に由来するダクテュロスに始まる旋律がドルチェで奏される。そして第97小節では、B部の開始を告げた和音による音形が回帰し、今度は三連符を主軸としてB部がさらに展開する。
第135小節ではA部が再現され、右手をオクターヴで重ねることにより冒頭旋律が変奏されている。B部の回帰は主調で行われる(第160小節)。1回目のB部のように転調を重ねた後、第82小節のドルチェ主題がホ長調で回帰したところで幕となる。
本楽章は、B部に様々な素材が詰め込まれることによって楽章規模の肥大化が起こっており、この意味では後年のシューベルトに典型的な様式的特徴が存分に見て取れる。