シューベルト :ピアノ・ソナタ 第21番 第1楽章 D 960

Schubert, Franz:Sonate für Klavier Nr.21  Mov.1 Molto moderato

作品概要

楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:14分30秒
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解説 (1)

解説 : 髙松 佑介 (1322文字)

更新日:2019年4月28日
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モルト・モデラート、変ロ長調、4分の4拍子

ソナタ形式で書かれた本楽章の提示部は、ソナタ形式史への「主要な貢献」とも称される、3つの調の主題を持つ。冒頭では、変ロ長調で抒情的な第1主題が奏でられる。この主題は半終止で閉じられ、弱音で奏される低音のトリルが不気味なニュアンスを与える(第8小節)。これに続く主題の確保が完全終止で閉じられると、その主題が新たな十六分音符による伴奏音形に支えられて、変ト長調で現れる(第20小節)。主題は三連符による伴奏に支えられて主調で回帰し、移行的なセクションに引き続いて、嬰ヘ短調で第2主題が提示される(第48小節)。異名同音の読み替えを行わなければ、第2主題は変ト短調で書かれるため、主調とは三度調の関係にあることが分かる。第2主題は2部分から成り、前半部は三連符の伴奏を内声に持ち、外声が旋律を担当する。後半部は、左手が十六分音符の分散和音による伴奏を取り、右手が旋律を担う。この後半部では、再び異名同音の読み替えを通じて、第70小節からヘ長調への期待が高まる(ヘ長調の三和音の第2転回形及びヘ長調の属和音)。これらに準備されて、第80小節において第3主題がヘ長調で提示される。ヘ長調のまま小結尾部が続き(第99小節)、提示部が閉じられる。

このように本楽章の提示部では、変ロ長調の第1主題に対して、第2主題が嬰ヘ短調(三度調)、第3主題がヘ長調(属調)で現れる。通例のソナタ形式は、2つの主題が5度離れて提示されることで調的な緊張を作り出し(正と反)、その両主題が再現部において主調で回帰することにより止揚される(合)と弁証法的に解釈できる。これに対して本楽曲では、主調領域と属調領域の間に三度調による主題が挟まれているため、提示部で目指されるはずの緊張が緩められている。ここに、ベートーヴェンに刻印された緊張関係による楽曲構築とは異なる、移り変わりに重点を置いたシューベルトの作曲理念が明示されている。

展開部は、嬰ハ短調で現れる第1主題によって幕を開け、第3主題がイ長調からゼクエンツで転調を重ねる。第151小節において導入される変ニ長調の新しい主題も、ゼクエンツによって転調する。第186小節において低音のトリルが現れると、第1主題の旋律が切れ切れに顔を見せ、再現部を予期させる。そして、特徴的なトリルに導かれて、第216小節で再現部となる。

再現部で特筆すべきは、調に関する2点である。1つ目は、提示部において第1主題半ばで変ト長調に逸脱したセクションが、再現部では変ト長調から嬰ヘ短調を経てイ長調(シャープ3つ)に転調する点である。2つ目は、第1主題と第3主題は主調で回帰するが、第2主題はロ短調(シャープ2つ)で再現される点である。どちらの点においても、近親調でも三度調でもないシャープをもつ調性、つまりフラット2個をもつ主調から五度圏上かけ離れた場所へと転調している。すなわちこの2点は、通例では主調に収めようとする再現部において、本楽曲では提示部より更に遠い調へと転じる試みがなされていることを示している。これも、当時一般的であったソナタ形式を、シューベルトが独自に発展させた結果と捉えられよう。

執筆者: 髙松 佑介

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