ベートーヴェン :ピアノ・ソナタ 第27番 第2楽章 Op.90

Beethoven, Ludwig van:Sonate für Klavier Nr.27  2.Satz Nicht zu geschwind und sehr singbar vorgetragen

作品概要

楽曲ID:30740
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:6分30秒
著作権:パブリック・ドメイン

ピティナ・ピアノステップ

23ステップ:発展4 発展5 展開1 展開2 展開3

楽譜情報:1件
  • クリックして画像を開く
  • tab

解説 (1)

解説 : 丸山 瑶子 (1327文字)

更新日:2021年2月14日
[開く]

第2楽章 ホ長調 2/4拍子 速すぎず、十分歌えるように演奏することNicht zu geschwind und sehr singbar vorgetragen

属調の第1クプレが主調で再現するロンド・ソナタ形式。楽章全体は画一的に感じるほど4小節構造が支配的である。また各部分のコントラストも強くない。こうした点から、激情的で変化に富んだ第一楽章に対して単純さが誇張されているようにも感じるかもしれないが、けして皮相的ではない。

ロンド主題は演奏指示にたがわず歌曲風の旋律で、ABBA(各8小節)の32小節から成る。第1楽章の主題とは対照的に主調が明確で、どの楽節も主和音に終止するという明快さを特徴とする。しかしこの癖のなさそうな主題にも、ベートーヴェンはその冒頭から一工夫加えている。すなわち第1楽章の最終小節と第2楽章の冒頭小節を並べてみれば、前楽章で旋律が下行してホ短調主和音に終止したのち、第2楽章は同じ音から上行してホ長調の和音が響くという、見事なシンメトリーができているのである。

また長大なロンド主題が短縮されずに再現するのもベートーヴェンのソナタにおいては異例である。加えて、主題そのものも旋律の反復を特徴としているために、この構成法はともすれば単調さを招きそうだ。しかし、チェルニーがその度ごとに主題のニュアンスを変えるようにと忠言するまでもなく、ベートーヴェンは主題内でフレーズが反復される際に音域などに変化をつけ、また楽章中4回目の主題再現では旋律を上下声部へ交互に配して、行き過ぎた単純さに陥らないようにしている。

第1クプレ(第40小節〜、再現部第181小節〜)はロンド主題と同じく歌唱的で、旋律がフレーズ内で動き回る音域幅も狭く、激動的な性格はない。ただし内声の刺繍音形によってけして安定することのない推進力も保たれている。ホ短調で始まる第2クプレ(第105小節〜)は全体の音程も大きく拡大・縮小し、転調や豊かな強弱変化を特徴とする点で第1クプレとは対照的である。展開部としてみると非常に短いが、こうした躍動性にソナタ形式の型が意識されていると考えても良いだろう。

再現部ののち、最後の主題提示におけるB部の途中から、旋律が楽章冒頭の通りには進まずに動機の反復へ変わり、そのままコーダに入る。しばらく動機加工が行われたのち、ロンド主題が顔を覗かせるが、すぐに旋律が短い動機に断片化される。そしてディミネンドとリタルダンドによる強弱とテンポの減衰で静かに楽章が閉じられると思いきや、アッチェレランドとクレッシェンドがかかり、最後の1小節でa tempo、p、ppに急転。穏やかな牧歌風の音楽から一転したこの末尾について、美しいものは幻影であり夢想から現実に引き戻されるロマン的アイロニーを見る解釈も存在する。

いずれにせよ本作品は、全体を特徴づける規則性や、全体として見れば古典派に典型的な形式構造や歌唱的旋律によって表面上は分かり易いものかのように作られていながら、和声的曖昧さや部分間の関連のほか、器楽ソナタにしては高い歌唱性と二楽章の形式との関連や楽章末の身振りなど、受容者による意味解釈を要求する側面を備えた内容になっている。

執筆者: 丸山 瑶子