第4楽章 変ホ長調 8分の6拍子 ソナタ形式
タランテラ舞曲風に音型化されたテクスチュアが楽章全体を覆っており、テンペスト・ソナタのフィナーレとの親近性がうかがわれる。
全体は概してソナタ形式よっているが、主題の性格や再現部における調性配分等の点において、その枠組みにはめ込むことは必ずしも適当ではないのかもしれない。
(提示部)
8分音符2つ分のアウフタクトという、珍しい拍節法によって開始され、上声部にあらわれる主要主題のアクセント付けによって、ようやく真の拍節感が得られる仕掛けになっている。タランテラ・リズム(第12小節~)とヘ音(属調の属音)の断続的な連打(第34小節~)による推移の後、属調(変ロ長調)で副次主題(第42小節~)があらわれるが、楽章全体を支配する伴奏音型の中に取り込まれており、ほとんどパッセージ化している。コーダ(第64小節~)は推移のタランテラ・リズムによっており、フェルマータが付された主調の属7和音にたどりつく。
(展開部+再現部)
展開部(第80小節~)は、まずタランテラ・リズムによって変ト長調へ転じる。これが異名同音の嬰ヘ長調へと読み換えられ、主要主題と推移部の同音連打それぞれのリズム要素が抽出された分散和音によって、ロ短調、ハ短調、変イ長調、変ニ長調へとゼクエンツ風に転調し、ふたたびタランテラ・リズムが回帰する。副次主題部分のパッセージが次々とあらわれ、分散和音の動機が徐々に主要主題の伴奏音型へと変化してゆく。
こうしてむかえた再現部(第174小節~)は、主要主題を再現した後、推移において変ト長調へむかう。副次主題はこの変ト長調で再現され、コーダ(第239小節~)において平行短調の変ホ短調へ道を譲るまで、主調の変ホ長調を匂わせることすらない。この調性配分を、ソナタ形式における独創的なものとみなすか否かは、議論の余地があろう。
このコーダもやはり拡大され、主要主題の動機が高音域と低音域に交互にあらわれる。フェルマータが付された減7和音によって2度にわたって分断されながらも、この動機を執拗に繰り返して楽曲を閉じる。