作品概要
執筆者 西原 昌樹 (約850字)
1956年4月9日から30日にかけてパリで作曲された。急、緩、急の3楽章よりなる。ピアノ
ソナタ第2番(Op. 293)よりさらに数年を経て、小ソナタとしての風格を保ちながらも、
いっそう自由な筆致で書かれている。各楽章は密度濃く凝縮され、簡潔で引き締まった書
法が光る。批評家やミヨー作品を知る演奏家からも高い評価を得ている。変則的なパッセ
ージ、非定型の和音奏や跳躍が頻出し、ピアノソナタと同等の高度な技術が要求される。
いわゆる弾き栄えのするピアニズムとは別の次元にある本作固有の書法について、ともす
ると自己陶酔に傾きがちなピアノの技巧に対してミヨーが寸鉄を刺したものではないかと
ジャン・ロワが評していることも興味深い。
本作はイギリスの名手、ハリエット・コーエン(Harriet Cohen)に献呈された。コーエン
は一般にバルトークの《ミクロコスモス》の終曲《ブルガリアのリズムによる6つの舞曲
》の被献呈者として広く知られるが、近現代の英国作品の紹介者としても多大な功績を残
している。初演は1959年3月22日、サンフランシスコのパシフィック・ミュージック・ソ
サエティの会合にて、ジョセファ・ハイフェッツ(Josepha Heifetz, 1930 - )がおこなっ
た。ジョセファは、往年のヴァイオリンの巨匠、ヤッシャ・ハイフェッツの娘でピアニス
トであり、アメリカ時代のミヨーのアシスタントを務めていた。彼女が発表した “24Exercises for piano” (Kjos, 1982) は米国でロングセラーの教本として広く使用されている。1958年にプロのチェス競技者で作家のロバート・バーン(Robert Byrne)と結婚し
、Josepha Heifetz Byrne の名義で辞書編纂者としても活躍した。
第1楽章 Décidé 決然と。4分の4拍子。ヘ長調を主調とする(調号なし)。
第2楽章 Modéré 中庸に。4分の3拍子。変ホ長調を主調とする(調号なし)。
第3楽章 Alerte 活発に。8分の6拍子。ハ長調を主調とする。