第10番 ホ長調
このハンガリー狂詩曲は後半興奮の坩堝と化します。気が狂ったように踊り続けるジプシーの様子を表現できます。非常に派手な曲ですのでアンコールなどにはとても良い曲になります。 冒頭3小節から既に派手に始まります。3つの上行形音階のカデンツが1小節ずつあります。これらの音階を弾くコツとしては、全部の音に1回ずつ力を入れず、最初と最後の2-3個の音のみ力を入れます。途中の音は伴盤の奥深くまでがっちりと弾く必要はありません。できる限り速く、軽く音階を上行することが重要です。
ダイナミックは勿論、この場合1小節目よりも2小節目、2小節目よりも3小節目の方が大きくなりますが、だからといって1小節目を地味に始めてしまってはインパクトがありません。各小節の1拍目は4分音符であることに注目して下さい。そして、小節が後ろに進むにつれ、これら4分音符の長さを少しずつ長めに取ると良いでしょう。故に、3つめはブローディングをかけ、4分音符で十分時間を取って弾くと良いです。
6-7小節間よりも、8-9小節間の方を多少大きめのダイナミックでこちらも強く、華やかに演奏します。しかしながら、10小節目はdolce con eleganza であることを忘れず、柔らかく、弱く演奏します。
14-21小節間は、6-13小節間の変奏のようなもので、内容は同じです。 22小節目からは新たな素材が登場しますがレガートの部分はペダルを使ってレガートに(22-23小節間)、またleggiero の部分は軽やかに(24-25小節間)、表現を強くする部分は表現を強く(26小節)、それぞれのキャラクターを出して下さい。以降、40小節目まで決して重たくならず、またあまり音量を出しすぎず、軽やかに、流暢に演奏します。
40-47小節間、カデンツです。即興的に。48-63小節間、ゆっくりから徐々にテンポを上げ、テンションを高めていきます。しかしながら終始ドルチェ、leggieroで重たくならないようにします。
64-81小節間、ギター系の楽器の描写です。78小節目からクレシェンドがかかりますが、同時にテンポも速めていき81小節目に達すると良いでしょう。
82-88小節間、3つの和音によるカデンツです。82小節目が1つめの和音、83小節目が2つめの和音、そして84小節目が3つめの和音になり、これが再び86小節目より繰り返されます。3つめの和音は2つめの和音の解決音のように思われるかもしれませんが、音楽は前向きにクレシェンドがかかります。3つめの和音を最も大きくするようにしましょう。
89小節目より108小節目はグリスアンドによる技巧の見せ場です。注意しなければならない点はリズムにあります。グリスアンド以外の音を弾くと2拍子によるリズムのからくりがわかります。
全てのリズムは守った上でのグリッサンドになります。
109小節目より徐々にテンポと音量が上がりますが、109小節目で既に音量はかなり大きくても構いません。125小節目までstringendoも兼ねながらテンションを高めていき、125小節目に達します。
125ー148小節間、この曲中最もテンションの上がるところで、テンポもできる限り速く弾きます。
しかしそうなるとやはり左手の10度の音程を速く弾くのがなかなか難しいと思います。そこで1つ練習方法を伝授します。125小節目を例に取ります。1拍に4つの16分音符が入っています。これを表拍からHとDis、DisとFisというようなペアで練習すると困難です。ここは16分音符1個分をずらして練習します。すなわち、1拍目16分音符2個目のDisと3個目のDis、次のFisと2拍目最初のFis、次のAとオクターブ下のAというように、オクターブの音をペアにして練習します。
そのときに重要なのは、例えば1拍目2つめの16分音符であるDisを1の指で弾いたとき、その指を上げずに、押さえたままにした状態で下の方のDisを5の指で弾きます。1の指を残すことで、5の指がどのくらい離れた位置にあるか、指に記憶させます。以下同様に、オクターブは全て1の指を残して5の指を弾く練習をします。
このセクション、速いテンポになると5の指がどうしても弱いので、かすれがちになります。速いテンポでも5の指がしっかりと弾かれる為には、5の指の形を決して伸ばさず、アーチ状にして練習をすることで、がっちりその伴盤に入れることが可能になります。
144小節目からは更にテンポアップをして、最後の和音までテンポと音量を最大限に上げます。