第3番 変ロ長調
このハンガリー狂詩曲は、全19曲の中では比較的技術面が楽な曲です。フリスカの部分も無く、途中、allegretto の部分はあるものの、とてもゆったりした曲として作られています。この曲には3つの異なった世界が共存します。重々しく悲痛な歌の部分、ギターを描写したような細かい音の部分、ハンガリーの民謡に基づいたリズミカルで活気のあるヴァイオリンの部分の3つです。それぞれ別世界のように扱います。
まず冒頭は重々しい悲痛な歌から始まります。この部分は1小節目から16小節目までとします。この16小節間は2つの部分に分けることができ、それぞれ、1-8小節間、9-16小節間に分かれます。
1-8小節間、9-16小節間は、それぞれ、さらに3つの部分に分けることができます。1-8小節間から見てみましょう。冒頭アーフタクトから始まり、2小節目3拍目までが1つめの素材です。 pesante espressと書いてありますのでその通りに弾くのですが、筆者が見ているブダペスト版には1-2小節目にペダルマークが書いてあり、1小節ずつ踏み続ける指示があります。しかしこの通りに踏むと特に2小節目はかなりの濁りが生じます。1-2小節間は、ほとんどペダル無しで良いと思います。
2小節目4拍目より、2つのセクションに入ります。これは4小節目の3拍目までとします。この間、メロディーラインの左手はオクターブになり、音量は少し大きくなります。この2つめのセクションではオクターブが故にどうしてもペダルが必要になります。8分音符の部分は、8分音符2つにつき1回ペダルを変えると良いでしょう。
そして3つめのセクション(4小節目4拍目より、8小節目4拍目まで)は再び単旋律に戻るものの音量的には今までで最も大きくなり、6小節目でピークを迎えた後は8小節目までdiminuendoをかけます。
これら3つのセクションから構成される、重々しい悲痛な歌の部分は、39小節目でもう一度登場しますが、今度は最初からオクターブになり、1回目(1-16小節間)より更に音量は上がります。
これら、重々しい悲痛な歌の部分で1つヒントを述べますと、それは現代のピアノと当時のピアノの違いを認識することにあります。音があまり伸びなかった当時のピアノで書かれた楽譜を現代のピアノで弾けば、過剰な位大きな音が出てしまい、結果、何の音が鳴っているのかさえ解らなくなるほど混沌としてしまうという事を解らなければなりません。結果、書かれてあるペダルマーキングも鵜呑みにしてはいけません。あまり大きすぎず、何の音がなっているのかはっきりと聴かせるように演奏してください。
さて、2つめの異なった世界の1回目は17小節目から22小節目までとなります。これは明からにギター系の楽器を描写している部分です。即興的要素が欲しい部分でもあります。ソフトペダルも踏んで見ましょう。少しぼやけた感じでも構わないと思います。とにかく、それまでの部分とは打って変わってカラーを変えて演奏します。
3つめの部分は23小節から27小節間になります。これはppからスタートするものの、いても立ってもいられないテンションの高さを表しています。楽器は恐らくヴァイオリン系であると思われます。故にアーティキュレーションを守り、この部分も即興性が欲しいところです。 26小節目からあ38小節目までは、17小節目から27小節目までの単なる繰り返しに過ぎません。 しかし、オクターブが加えられ、テンションはより高まります。
39小節目で、再び1小節目に出てくる重々しい悲痛な歌が登場します。54小節目においては、2つめのギターの世界に出てくる旋律の一部が右手に、重々しい歌の断片が左手に合わさります。そして60小節目でピークを迎え、62小節目から64小節目まで別世界の記憶がよみがえり、65-66小節とクレシェンドでドラマティックに終わります。