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リスト :巡礼の年 第3年 「哀れならずや-ハンガリー風に」(人の世に注ぐ涙あり) S.163/R.10 A283

Liszt, Franz:Années de pèlerinage troisième année "Sunt lacrymae rerum" S.163/R.10

作品概要

楽曲ID:23738
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:7分30秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

演奏のヒント : 大井 和郎 (1761文字)

更新日:2018年3月12日
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5. 哀れならずや-ハンガリー風に(人の世に注ぐ涙あり)

この曲は、巡礼の年第3年に収められている曲で、この「第3年」という曲集全体は他の2つの巡礼の年の曲集に比べ最も音楽的に理解しづらい曲集と言えると思います。この頃のリストの作品は、一昔前の作品のように多くの音を使い人間の限界に挑戦した時期に比べ、音の数は少なく、単純で、宗教的に変わってきたと言えます。この作品を演奏会で演奏したり演奏を聴いたりすることは希であると思います。相当なリストマニアのために、オールリストプログラムなどを組んだときには演奏される可能性もありますが、他の作曲家が入っている場合、この曲をわざわざ選ぶ演奏家の方は少ないと思います。それほどレアです。

筆者はリストの作品を多く弾いてきましたので、この作品もとても魅力を感じます。この作品を演奏するに当たっての演奏のヒントは、とにかく「解りやすく」演奏することに尽きると思います。

それは、音をハッキリと聴かせることであったり、形式をハッキリと把握できるような演奏であることが望ましいです。ただでさえ理解が難しい曲ですので、その辺の配慮がなおさら必要になります。

では冒頭から見ていきましょう。1-8小節間、カデンツの部分になります。威厳、決断、運命、苦しみ、悲しみ、恐れ、といったような心理的描写から入ります。1小節目、1つ目のカデンツはBで終わります。2つめのカデンツは2小節目Aで終わり、幾分Bよりもテンションは和らぎます。

BからA、Aから3小節目はGisに落ち着きます。ですから、B、A、Gis、と下行するに従い、気持ちも少しずつ和らぎますが、不安は残ったままです。何かを模索しているような描写が8小節目まで続きます。即興的な演奏が必要となり、決してメトロノームのようには弾かないようにします。

8小節目はppで、1小節目はFFですので、FFからppまで、8小節間を使って音量を下げていき、ritenutoも守り、4-8小節間は少しぼやけた音質で良いのでは無いかと思います。

9-19小節間、レチタティーボの部分になります。故に、即興的な独奏になり、書いてあるように、molto accentato e doloroso (一つ一つの音をしっかり弾き、悲しみを表現する)を守ります。

9-14小節間よりも、15-19小節間の方のテンションを高めにします。1度音量を落として、20小節目に入り、徐々にcrescendo をして、24小節目をゴールにします。後は書いてあるダイナミックマーキングに従います。

30-41小節間、かなり低いレジスターの音が出てきます。リストの作品を演奏するとき、このような低い音でのペダルは十分に注意しなければなりません。リストの時代のピアノは現代のピアノとは異なり、現代のピアノのように音が長く伸びることは無く、低音も音量は出ませんでした。その時代に書かれたペダリングを現代のピアノに鵜呑みに利用してしまうと何の音が鳴っているか解らなくなってしまったり、必要以上に濁ってしまいます。このような場合、ペダルはできる限り控えめにして、一つ一つの音がハッキリと聞こえるように演奏します。例えば、40-41小節間の左手をご覧下さい。半音階的に動いているのはかなり下の方のレジスターになります。

この時、親指はAsに乗っかっていると思いますが、Asはできる限り弱く弾き、動いている方の声部をハッキリと聞かせるようにします。

42-56小節間、即興的に、55小節目をゴールとして目指します。57小節目から72小節目まで、テンションを徐々に高めていきます。72小節目はゆっくりと衰退します。73小節目より夢の世界のようなイメージを持ちます。89小節目より今度は101小節目を目指して本格的にテンションを上げていきます。

この曲の最後の強弱記号は117小節目の、sempre FFですが、そこから最後まで、強弱記号は書いていません。察するに、最後までsempre FFで良いと思います。

この曲の主題は、9-10小節目の右手、F E H が基本になります。短2度、完全4度の音程ですね。

最もテンションの上がる101小節目の右手もこの主題で、Fis F C 、で、やはり短2度、完全4度の主題になります。

執筆者: 大井 和郎
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