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ラヴェル :鏡 第5曲「鐘の谷」 嬰ハ短調

Ravel, Maurice:Miroirs "La vallée des cloches" cis-moll

作品概要

楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:性格小品
総演奏時間:5分30秒

解説 (1)

解説 : 舘 亜里沙 (634文字)

更新日:2019年2月13日
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【第5曲 〈鐘の谷 La vallée des cloches〉】

ラヴェルの弟子で友人でもあったモーリス・ドラージュMaurice Delage(1879~1961)に捧げられた。基音となるC#≒D♭音、三度と四度を交替させる冒頭の最上声部の音型、変拍子によって即興的に聞こえる音運びは、第1曲〈蛾〉と対応しているが、三段譜を駆使することで生じる声部間の距離や完全音程の頻発による空虚な響きは、むしろ対照的な開放感を聴き手に与える。  調によって明確なA―B―A’に区切ることが出来るが、さらにA部分をモティーフの性質で2つに分けるとa―b―c―b’―a’とシンメトリーになっている。a部分とa’部分では谷にこだまし余韻を残している鐘の音を描写したかのような、4度(a部分では途中から3度)の重音による六連符とオクターヴの跳躍がひそやかに奏でられるが、b部分とb’部分では鐘の音そのものを模倣したような、より密度を増した和音による四度下降が奏でられる。c部分はaやb部分とは異質で明瞭な旋律線を持っており、それが中声部→上声部と移ることで、鐘の響きを模倣する音の層というよりはむしろ古典的な多声音楽を想起させる。この旋律線を「鐘」そのものではなく「鐘を響かせている教会の中の音楽」と解釈するならば、この楽曲を通して作曲者の視線が「鐘のこだまする谷の全景」→「鐘を響かせる谷間の教会」→「教会の中の音楽」とクローズアップされ、また遠ざかっているとも考えることもできる。

執筆者: 舘 亜里沙