メンデルスゾーン :6つの子供の小品 第2番 Op.72 U 170 変ホ長調

Mendelssohn, Felix:6 Kinderstücke Andante sostenuto Es-Dur Op.72 U 170

作品概要

楽曲ID:23437
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:2分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

演奏のヒント : 大井 和郎 (1690文字)

更新日:2018年3月12日
[開く]

ページ数にすれば3ページ以内、分数にすれば3分くらいの短い曲ですが、その中にドラマがあります。この曲の演奏のヒントとしては、和音、非和声音、歌のラインの行き先、などに敏感になり、心理的描写を察し、余すところなく十分に表現をすること。これに尽きます。

歌の部分がどこであるかを探すことは難しくありません。4小節目2拍目より歌が出てきます。それまでは3小節間の前奏ですが、この前奏からすでにメンデルスゾーンの色気が出てきます。この3小節間、和声は: 1小節目 I V7  2小節目 I V7  3小節目 I  と実に単純な和声進行ですが、スパイスとなる音はこの3小節間に現れる右手のA㽇にあります。もちろんこれは非和声音です。仮にこのA㽇がGと仮定し、A㽇をGに直して前奏を弾いてみましょう。これでも普通に聴けますよね。でも本当に色気が無いと感じないでしょうか?このA㽇によって実におしゃれな色気が演出されているのです。そういうところから理解をしていきます。

さて、歌の部分が4小節目2拍目から始まります。ここでの注意点はバランスにあります。左手の伴奏は1の指が保続音であるEsを担当しますので、どうしてもこの音が大きくなりがちです。左手は極力控え、右手をたっぷり、はっきり、歌うように弾きます。この歌の部分は1つ目のフレーズが4小節目2拍目より、8小節目1拍目までになります。ここで1つ区切られます。その間、フレーズはさらに2つに分かれ、4小節目2拍目から6小節目1拍目までが1つ、6小節目2拍目より8小節目1拍目までがもう1つです。この2つを比べたとき、1つ目はたっぷりと表現する本題のような重要な歌、そして2つ目がそれに付属するようなそこまで重要ではない歌詞だとお考え頂いて良いと思います。しかし2つ目のフレーズで、メンデルスゾーンは借用和音の1部ととれるDesを使ってきています。この音はDでも全く問題ないのですが、わざわざDesを使い感傷的なムードを演出していますね。

9小節目は5小節目よりももっと時間をとってたっぷりと歌います。そして再び囁くように、10小節目の2拍目から14小節目1拍目まで穏やかに。ここで学習者が起こしやすいミスを取り上げます。13小節目2拍目の右手です。ここは2声になっていますが、ペダルを踏み続けると、Es と Dが濁ってしまいますので、この拍、ペダルは2回、表拍と裏拍を踏みます。ところがそうすると今度はメロディーラインのFが切れてしまうケースが多くあります。メロディーラインのFは指で繋いだままで、内声がDに来たらペダルを変えます。このときに濁ってはいけません。そして、裏拍のDは8分音符ですから、これを14小節目のEsに繋ぎます。ここも切れないようにして下さい。

さて、14小節目2拍目より新しいセクションに入ります。1つ目のフレーズは14小節目2拍目から16小節目1拍目までです。その時、右手に内声のAが15小節目2拍目裏拍に入り込んできますね。この15小節目2拍目は(少なくとも2拍目は)、FACEsの和音で、最も低い位置にあるBは保続音です。ですのでこのAは和声音であり、なんら特筆すべき事では無いのですが、次の小節にタイで繋がれ、Bに解決する非和声音となります。

前の和音の音を引っ張ってきて、下に下がって解決するのがサスペンション。しかしこのように上に上がって解決する非和声音をリターデーションと言います。同じ事が、17-18小節間にも起こります。ある種独特の強調手段です。少しアクセントを付けて良いと思います。

23小節目、喜びを表現している部分です。それはバスのBがあるから他なりません。もしもこのBが無かったらと仮定し、試しにB無しで弾いてみてください。喜びには至りませんね。31小節目、バスとテノールのA㽇のオクターブは実に不気味な表現です。

34小節目はこの曲のピークポイントになります。そこまで押し上げ、圧迫して聴かせるようにしてください。34小節目に達したら、あとは、単旋律を使って衰退していきます。自由に即興的に歌ってください。

執筆者: 大井 和郎

参考動画&オーディション入選(1件)

第2番

楽譜

楽譜一覧 (8)