この曲に限らないのですが、テンポを変えることによって曲が激変するという曲の1つです。書法を観る限り、多くの半音階的進行に加え、例えば、11~12小節間のような、2声間の音のぶつかりを際どく避ける書法からして、果たしてこの曲が楽天的なムードを、少なからずとも持っているか否かに関しては、なんとも判断が難しく、故に最終的には奏者に委ねてしまうところです。
仮にこの曲が非常に深刻で、厳かで、悲しみの表現も含まれるとした場合、この曲をかなりゆっくり弾くことに対して否定的にはなれません。それはそれで、大変美しい独自の世界が表現されます。
一方で、この曲は2/2拍子で書かれており、例えば5~8小節間のような8分音符の進行が、あまりにもテンポが遅すぎてしまうと間延びしてしまうという考え方も否定できません。
この曲はヴァイタリティーあふれるエネルギッシュな曲なのでしょうか?それともしんみりと華奢な、か弱い美しさを表現する曲なのでしょうか?
バッハのa-mollはそれのどちらの側面も見られますので、益々判断が難しくなりますが、学習者はテンポの遅いヴァージョンと、速いヴァージョンの両方を試し見て、自分が納得できる方を選んでみてください。