バッハに限らず、どの作品に関しても共通して言えるピアノの特性をお話しします。ピアノは他の、弦楽器や声楽などに比べて極端に非音楽的な楽器です。それには多くの理由がありますが、その中の1つとして、同じ音の連打という問題があります。
同じ音の連打というのは、全く同じ強弱レベルで、全く同じタイミングで同じ音を連打した場合に起こるお話になります。これをやってしまうと、ピアノという楽器は極端に機械的に硬くきこえるようになります。
このフーガの冒頭も連打音があります。1小節目を例に取ります。冒頭、A3つ、その次に、Hが3つあります。筆者の見ている楽譜には1小節目の4拍目に向かってクレシェンドが書かれておりますが、勿論これはバッハが書いたものではありません。この楽譜を編集した人によるものですが、強ち間違ってはおりません。冒頭の連打音を全て同じレベルで弾くことで、非音楽的な演奏になります。
このフーガのテーマ(主題)の向かう音は、2つあります。1小節目を例に取ります。1つ目のゴールは2小節目1拍目表拍のCです。ここに向かって行く感じを出しますので、連打音のAとHがそれぞれ、同じ音量にならないように注意してCに向かいます。
2つ目に向かう音は3小節目のEです。1つ目のゴールにたどり着き、そこで一度音量を落として2拍目のAで終わります。そしてこの2拍目のAから、今度は3小節目のEに向かって再びクレシェンドをかけます。1つ目のゴールと2つ目のゴールを比べたとき、明らかに2つ目のゴールの音が1つ目より大きくなるようにして下さい。以降、テーマが出てきたら同じように処理してください。