バッハ :幻想曲 ト短調 BWV 920
Bach, Johann Sebastian:Fantasie g-moll BWV 920
執筆者 : 朝山 奈津子 (330文字)
6部分から成る長大な作品。長いということそれ自体がこの曲の特徴であり、また欠陥でもあろう。ドイツの伝統的なトッカータやファンタジーに明確なT-F-T-F-Tの構造をとらないが、第2・4・5セクションは両手の模倣で始まる。いっぽう、セクションの切れ目など随所で分散和音が2分音符で示され、即興風の処理が求められている。鍵盤の幅をいっぱいに使う両手の分散和音や模続進行による無窮動のパッセージなど、常套句が多用され、並列されている。いささか冗長の感も否めない。
しかし、用いられる和音や和声の進行には――バッハの典型と呼びがたいものが多いにせよ――色彩感ある大胆な響きがときおり光射すように顕れる。真作であるかどうかはともかく、演奏効果は充分に期待できる作品である。