G-mollの幻想曲です。この幻想曲に特に必要なものは「方向性」です。このタイプの曲が平坦に弾かれてしまうと、本当に間延びしますし解りにくい演奏になります。方向性を持つためには、和声的な分析も必須です。例えば3小節目3拍目から始まるアルペジオの和音ですが、全部で15個の和音がありますね。この和音を3つのグループに分けます。
1つ目 最初の5つの和音
2つ目 6番目から6つの和音
3つ目 最後の3つの和音
1つ目のグループを見てみましょう。1つ目の和音から2つ目に移るとき右手真ん中の音DがEsに上がります。3つ目の和音から4つ目に移るとき右手真ん中のEsからDへ下がりますが、左手の和音は真ん中の音がCからDに上がります。和声楽上、右手にC-D、左手にもC-Dと書いてしまうと「平行8度」という禁則になりますので、バッハはこれを避け、EsからDに降りてくる形を右手に書いています。しかし実際は左手のように、C-Dと人の耳には残ります(左手も助けるからです)。そして4つ目の和音から5つ目に行くとき、右手一番下のCが次の和音でBに降りてきますね。
この動きを追うと、D-Es-C-D-B という音形になります。そうすると2番目の和音が最も高い位置にあることになり、そこからテンションが徐々に下がってきて5つ目に達すると考えます。故に、1つ目から2つ目の和音に行くときに最も音量を上げておき、あとは徐々に下げて最後にトニック(主和音)に進むと考えます。
2つ目のグループも同じように分析します。そしてこんどは1つ目のグループと2つ目のグループを比べてみます。2つ目のグループの方が明らかにテンションが高いですので、その対比を強弱で出します。そして3つ目のグループは最もテンションが高いという風に仮定しますと、これでこの15個の和音全てに方向性を持たせることが可能になります。こうした分析を行い、全てのセクションに方向性を持たせること、平坦な演奏を避けます。これが
この曲を演奏するヒントになります。