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アルカン, シャルル=ヴァランタン :片手ずつ、および両手のための3つの大練習曲 両手のための練習曲、相似的で無窮動な動きによる [Op.76-3] ハ短調,ハ長調

Alkan, Charles-Valentin:Trois grandes études pour les deux mains separées et reunies Etude à mouvement semblable et perpétuel pour les deux mains c-moll,C-Dur [Op.76-3]

作品概要

楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:練習曲
総演奏時間:5分00秒

解説 (1)

楽曲分析 : 上田 泰史  (2706文字)

更新日:2018年3月12日
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第3番 〈両手のための練習曲、相似的で無窮動な動きによる〉 プレスト ハ短調―ハ長調 2/4拍子  

2オクターヴによるユニゾンの練習曲。「類似した動き(movement semblable)」とはユニゾンのことであり、「無窮動([mouvement] perpétuel)」とは、延々と同じテンポ、音型で動き回る「窮すること無き」旋律の動きである(フランス語の語彙としては、19世紀においてこの語は他に「過剰な身体活動を有する者」、「永久機関」、「解決しえない問題の答えを探し求めること」といった意味がある)。音楽においてこの用語は早くから定着しており、メンデルスゾーンが《無窮動(Perpetuum mobile)》作品119(1826作曲)でも用いているし、ウェーバーの《ピアノ・ソナタ 第1番》作品24の終楽章は、1853年にパリで《無窮動(mouvement perpétuel》というタイトルで出版されている。  両手で同じ走句を演奏する様式は、当時のパリ音楽院公式ピアノ・メソッド等に見られる訓練課題にも見られるが、1830年代にはピアノ曲の作曲書法としても定着しつつあった。例えば、ヅィメルマンの《24の練習曲》作品21(1831)の第15番は、一曲の大部分がオクターヴのユニゾンで書かれている。アルカンは1837年に出版した《悲愴的ジャンルの3曲》作品15の第2番〈風〉で、ユニゾンを吹き荒れる風の表現として10小節にわたり用いている。彼が《3つの大練習曲》を出版した1840年の5月、ショパンはパリで《ピアノ・ソナタ 第2番》作品35を出版している。周知の通り、ショパンはこのソナタの終楽章を終始1オクターヴのユニゾンで書いている。ユニゾンの響きは1840年までに練習課題から一つの表現手段へと統合されたのである。とりわけアルカンは本作において、2オクターヴでユニゾンを形成することで、ダイナミックな響きを生み出している。彼は翌年、1841年に出版したピアノ三重奏曲のフィナーレでもユニゾンの書法を用いることとなる。  第3番は一種のロンド形式で書かれているが、循環する主要主題(A)の間には5種類のエピソード(B, C, D, E, F)が挿入され、小節数は全体で420小節に及ぶ。下に、第3番の形式図を示す。   ここでは、全体を次の3部分に分けて解説する。第1部:第1~129小節、第2部:第130~245小節、第3部:第248~420小節に分けて解説する。  第1部  テンポは四分音符=160。主要主題2つの楽想(A・B)から成る。Aの主題の上声は中音域に置かれ、pで鈍い唸りを響かせながら2度現れ、8小節+8小節の均斉のとれた楽節を形成する。   Bは17小節から成り、近親調からの借用和音で変化を与えながら属和音に至って再びppでAを導く。最初のAの回帰は、始めと全く同様に17小節のBを従え、結果的に31小節がそのまま繰り返される。この反復は、その後の華々しい音響を印象づけると同時に、第3部の再現で「Aの後にはBが来るという」期待を聴き手に植えつける。  3度目のAの回帰(A2)において、10小節間は同じ主題をなぞるが、11小節目から逸脱して初めてアルペッジョを形成し(第79~82小節)属七和音に至ってCに入り、ffで4オクターヴを一気に駆け上がる主和音に解決して最初のクライマックスを築く。   Cの主題は第83~96小節、第97~110小節で2回現れ、それぞれハ短調、ト短調で提示される。第111小節からはナポリのII度、ドッペルドミナントの属九和音等で2オクターヴにわたるアーチ型のアルペッジョを作りながら移ろい、ハ短調の属和音と半音階を同時に響かせながら第2部に入る。 ・第2部  変ホ長調のDではpppで新しい主題が示される。旋律は最上声部の拍頭に置かれた8分音符(但し3小節間のみ)によって形成され、他の16分音符は分散和音としてこれを伴奏する。ユニゾンながら、ここで声部の役割は明確に分かれ、「表情豊かな(espress.)」旋律が冒頭の荒々しい主題と対比を成す。   第131~146小節までの16小節で1まとまりの楽節を作り、第147~158小節で再び現れる際には12小節間のうちにト短調に移る。第160小節から始まる3度目の提示はト長調で始まるが、すぐに借用和音によってト長調ははぐらかされ、変ホ長調に戻り新しいセクションEに入る。  Eは、高音域で変ホ長調の上行音階とそれに続くト短調とそのナポリのII度を響かせる楽句からなる。8小節からなるこの主題は、もう一度繰り返されるが、今度は主調のナポリのII度を経て変ハ長調のFに入る。   Fは煌びやかな高音域で始まり、Dと同様の書法により、最上声部でpの旋律が歌われる。この楽想は第199~212小節の14小節間に次第に音域を下げ、第213小節から再び中音域に旋律を移してハ長調で現れ、変形・短縮される。第221~230小節にかけてこの楽節がなぞられ、232小節から次第に力を弱めAの回帰を導く。 第3部  3度目のAの回帰は冒頭と同じ音域で始まるが、pppで遠くから響くように始まる。長い第2部の後に現れたA3の再現はBの到来を期待させるが、Bの前にアルカンはこの期待を裏切るために変イ長調のDを置いた。直接Dが今度は変イ長調で再現される(第261小節)。その後、第285小節でBが主調で現れる(B2)が、第300小節で再びDが主調の同主調(ハ長調)で現れる(D3)。第3部におけるDの頻出は、第1部におけるA-B-A-C-Dという基本的枠組みに2回Dを挿入してA-[D]-B-[D]-A-C-Dとすることで、聴き手の期待を2度裏切る仕掛けを作り出している。Aがハ短調で再び現れてからは、第1部と同様にC、Dが続く。第3部で既にDは2度も登場したので、最後のDの提示は旋律を拍頭ではなく、2つ目の16分音符に置いて変化をつけ、長さも16小節と短めにしている。強弱も、ここではffである。   第376小節で最後にAがもう一度回帰するが、期待されるハ長調ではなくイ短調で再現される。右手は高音域、左手は中音域で、静かに(pp)始まるが、主題がハ長調で現れる第384小節から次第にクレッシェンドして第404小節でコーダに入り、fffのクライマックスを築く。コーダでは分散されたオクターヴの音型を活用しながら幅広い音域を烈しく響かせ、鍵盤をグリッサンドで一気に駆け上がり、IV度と主和音で堂々と曲を閉じる。

執筆者: 上田 泰史 
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