アルカン, シャルル=ヴァランタン :片手ずつ、および両手のための3つの大練習曲 左手のための幻想曲 [Op.76-1] 変イ長調

Alkan, Charles-Valentin:Trois grandes études pour les deux mains separées et reunies Fantaisie pour la main gauche seule As-Dur [Op.76-1]

作品概要

楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:練習曲
総演奏時間:9分30秒

解説 (1)

楽曲分析 : 上田 泰史  (2102文字)

更新日:2018年3月12日
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第1番 〈左手のための幻想曲〉ラルガメンテ――アレグロ・ヴィヴァーチェ 変イ長調 4/4拍子

「幻想曲」というタイトルに相応しく、限られた素材による即興的な様式で書かれている。技巧の面でも、特定の音型の反復によらず、トレモロ、オクターヴ、和音の跳躍、分散和音など多種多様な技巧が用いられており、シンフォニックな音響を追究している。全体は複縦線で大きく3つに区分されているが、形式的観点から見れば、第93小節を境に大きく2部分に分かれる。下の図は、第1番の形式上の区分、小節、調の推移等を示している。  ・第1部  2つの楽想(AとB)の交替する前半(第1~30小節)と、A、Bの展開による後半(第30~92小節)から成る。Aは金管楽器の合奏を思わせる分散和音と旋律からなり、低音域から中音域にかけて拡がる。   第2小節の最上声の付点リズムは、第6小節で縮小され、このリズム・モチーフを活用しながらハ長調への推移が形成される。第11~12小節の完全終始でハ長調が確保され、主和音が一気に5オクターヴ下行して打ち鳴らされ、Bが導かれる。   変イ長調で提示されるBは、中音域の旋律と低音部のトレモロを組み合わせている。1830年代中ごろから、ショパンタールベルクといったピアニスト兼作曲家たちは豊かな声楽的表現の中音域に委ねるようになる。それは、ピアノの機構が発達したことで中音域の弦から伸びやかな持続が得られるようになったからである。アルカンがBの旋律的主題に中音域を選択したのはそのためである(同様の例は作品14-1にも見られる)。タールベルクの手法に従って、中音域の旋律をアルペッジョで取り囲むことも出来たであろうが、アルカンは彼の手法を避けた。Bは4小節+4小節で8小節を成す均斉のとれたフレーズを形成し、再びAとBが回帰するが、今度は変ヘ長調で現れ、それぞれ4小節ずつに短縮され(A1, B1)、主調に回帰する。続くAの回帰は更に短縮され、変ニ長調で2小節しかない(A3)。A3を推移句として、軽快な2/4拍子、アレグロ・ヴィヴァーチェの展開セクションに入る。  Aの展開は第30~46小節と第46~61小節の2部分に分かれる。前半では曲冒頭の6連音符によるアルペッジョと、断片化された主題の下行旋律の交替(譜例3)、後半では16分音符によるトレモロ風の新しい音型と、1つのフレーズを締めくくる8分音符の和音跳躍(譜例4)による展開が行われる。    Bの展開はAのそれよりも短く、変ホ長調による主題再提示とアルペッジョによるその変奏による(譜例5)。   第74小節で変ホ長調の主題は変ト長調に移り、ゼクエンツによるアルペッジョには輝きが与えられる。アルペッジョのアラベスクは変ハ長調、変イ短調へと移り、第1部のコーダが導かれる。コデッタはA3を開始したモチーフの反復によって始まり、6連符で鍵盤を駆け巡りながら最後はアルペッジョで5オクターヴを一気に駆け上り変ホ長調で曲を閉じる。 ・第2部  第2部は「重々しく(Gravamente)」と指示された変イ短調のバス主題で始まり、「忍び足」のようなスタッカートとフレーズ末尾に置かれた低音のトリルで8小節の楽節が作られる(譜例6)。   続いて、ゆったりとした行進曲風のDが変ハ長調で現れ、8小節のフレーズを形成する。ここでも、旋律は中音域に置かれる(譜例7)。   第109小節からはCの第1変奏が始まる。ここでは、音型は、一貫した付点リズムの反復が用いられる。まず4小節+4小節で変イ短調の8小節のフレーズが形成され、Cの主題をバスにおきながらその上方で和声付けが行われる(譜例8)。   第120小節から、C1の展開が始まる。Dの主題の冒頭を変形した音型が同じ付点リズムで示され(譜例9)、ここから変ホ長調、ト長調等へと転調しながら展開される。   C1の展開は第126小節から始まる変ハ長調のパッセージで締めくくられ、第132小節からC2が始まる。  「生き生きと(vivamente)」という楽想表示で始まるC2は主調によるCの変奏で、技巧的な山場である。主題は常にバスに置かれるが、1拍のうちにオクターヴを押さえた手は連続的に2オクターヴ上方へ跳躍する(譜例10)。   4小節からなる主題フレーズを3回、テクスチュアを変えながら提示したのち、新しい楽想Eが導入される。ここでは、オーケストラの異なるパートが呼び交わすように、低音の音階と中高音域の付点リズムが交互に現れる(譜例11)。また、この箇所では2拍目にC1のリズム・モチーフが活用されている。   第150小節で、Cの主題モチーフ(第97小節)が喚起され、主調によるストレット(C3)への推移となる。  ストレットでは、主題が長調に移されてfffで高らかに歌われるが、最初の4小節を追え、2回目に現れる際にはハ長調、ヘ長調の和音が借用され、彩りが添えられる(第164~165小節)。  第170小節から始まるコーダは、第一部のBの主題を回想しながらffffで曲を閉じる。

執筆者: 上田 泰史 
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