徳山 美奈子 :ムジカ・ナラ Op.25
Tokuyama, Minako:Musica NARA Op.25
総説 : 仲辻 真帆 (662文字)
低音部に響くB音――静寂が際立つ。続く32分音符――“laissez vibrer”(音の響くままに)の指示。《ムジカ・ナラ》の冒頭は、寺の鐘の響きとその余韻に満ちている。 作曲者によると、この曲は「いにしえから舞いこんだ蝶に導かれて、奈良の昔の姿が映し出され」るという趣向。演奏者と聴き手は飛びゆく蝶のもとで、様々な登場人物に出会うことになる。 “Guardian Deities of the Children”(12小節目)、 “Running Priest”(33小節目)、“Laughing Buddha”(65小節目)、“Obstinacy”(82小節目)、“Deva King”(131小節目)という楽譜の記載からもわかる通り、地蔵、僧侶、仏像、邪鬼、仁王たちが生き生きと描かれるこの作品には、歴史ある奈良の多様性が洗練されて歌い込まれているが、一方でどこか凛然とした雰囲気も漂う。曲が進むにつれてテンポは速まり、たたみかけるようなスタッカート付き16分音符などが続いた後、再び鐘が打ち鳴らされる。曲の最後は、冒頭と同様に鐘が響きわたり、古都の日暮れを思わせる。「最後の音の余韻の中に、1250年以上前の奈良の響きを幽かに聴きとってください。」とは、作曲者の言葉。 この作品は、2006年11月に開催された第6回浜松国際ピアノコンクールの第2次予選課題曲として作曲された。演奏時間は約7分。 「蝶」を自由に飛ばし、奈良、あるいは故郷に想いを馳せながら、生命力に溢れた演奏をすることが求められる作品である。
ムジカ・ナラ
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