出版:Paris, G. Flaxland, 1862
献呈:Madame Désirée Hallé
ヘラーが「ノクターン」というタイトルで出版した3 作(作品92-1, 2 と本作)の内、第3 番に当たる作品。J. フィールド(1782~1837)が確立しF. ショパン(1810 ~49)が発展に大きく寄与したノクターンの旋律は、一般にゆったりとしたテンポでオペラ・アリアのように歌唱的である。伴奏は分散和音かアルペッジョである場合が多い。こうしたノクターンの一般的特徴は本作にもある程度通じるが、ヘラーの旋律はオペラの歌唱様式を範とせず装飾は控えめで、繊細な和声の響きの変化を重視している。献呈を受けたD. ハレは、ヘラーが「理想のピアニスト」と評価していた友人チャールズ・ハレ(1819 ~95)の妻。
曲はA - B - A’- コーダで構成される。A(1 ~38 小節)の冒頭、ト音から滴るように音符が拡がり4 声のテクスチュアが形成される。最下声部に提示される主題1(1 ~5 小節)は形や音域を変えながら繰り返される。
ト短調のB(39 ~93 小節)は徐々に発展する2 つのセクションから成る(① 39 ~54 小節、② 55 小節~93 小節)。B の41~42 小節の右手に出る下行音階のモチーフ(主題2b)は主題1冒頭(1 ~2 小節)に由来する。②は①の発展的変奏。B 冒頭の8 小節(39 ~46 小節)は10 小節(55 ~64 小節)に拡大される(57~58, 61 ~62 小節の動機は9 小節3 拍目からの左手の動機に由来)、主題2a は重音(右手)によるヴァリエーションを伴う4 小節(65 ~68 小節)へと引き延ばされる。49 ~54 小節の6 小節は69 ~83 小節の15 小節に拡大され、右手の旋律はオクターヴになり、左手の伴奏はいっそう広い音域を響かせる。
A’への移行部(83 ~93 小節)を経て、主題1 が回帰する。A’(94 ~129 小節)はほぼそのままA を再現するが、随所に音程やリズムの変化がある(例:113 ~114 小節 ; 120 ~122 小節)。130 小節から始まる長いコーダ(130 ~171 小節)ではバスの主音ペダル上で主題1 が繰り返され(130 ~137 小節)、主題2a(138~145 小節)、主題2b(146 ~155 小節)のセクションがクライマックスを形成する。156 小節以降はレチタティーヴォ風の旋律とトリルを交互に繰り返し(156 ~163 小節)、主題2b の変形に基づく最終的な結尾(164 ~171 小節)で曲が閉じられる。