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コンコーネ, ジュゼッペ :シューベルトの旋律による連弾のための10の演劇的練習曲 Op. 58

Concone, Paolo Giuseppe Gioacchino:10 Etudes dramatiques pour piano à 4 mains, sur les plus jolies Mélodies de Fr. Schubert Op. 58

作品概要

楽曲ID:79157
出版年:1861年 
初出版社:A. Grus
楽器編成:ピアノ合奏曲 
ジャンル:練習曲
総演奏時間:32分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

解説 : 西原 昌樹 (4773文字)

更新日:2022年7月12日
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声楽教本で知られるコンコーネは、ピアノのエチュードも多く書いた。次の通り、ピアノソロ用に7点、ピアノ連弾用に6点のエチュードの存在が確認される(作品番号順ではなく、19世紀に出版社 [Grus] が整理した難易度順による。確実なものに限り出版年を記す)。欧米では19世紀後半から20世紀初頭にかけて広く使われた実績のあるエチュードである。日本でも1999年に全音から計4点(ソロ2点、連弾2点)が刊行され一定の普及をみたが、総量からすると3分の1程度の紹介にとどまるうえ、残りのエチュードへの目配りもないのはいかにも惜しい。コンコーネのピアノのエチュードの全体像の把握とその再評価が望まれる。

【ピアノソロ用】

25 Etudes mélodiques faciles et progressives pour piano, Op. 24 [Paris, Grus, 1841] 国内版:ピアノのための25の旋律的練習曲[初級から中級まで][全音, 1999]

20 Etudes chantantes pour piano, Op. 30 [Paris, Grus] ピアノのための20の歌謡的練習曲

15 Etudes expressives pour piano, Op. 44 [Paris, Grus, 1853] ピアノのための15の表情的練習曲

15 Etudes de Genre et d’Expression pour piano, Op. 25 [Paris, Grus] 国内版:ピアノのための15の練習曲[様式と表現][全音, 1999]

15 Etudes de Style pour piano, Op. 31 [Paris, Grus] ピアノのための15の様式の練習曲

20 Etudes sentimentales pour piano, sur les plus jolies Mélodies de Fr. Schubert, Op. 54 [Paris, Grus, 1860] シューベルトの旋律によるピアノのための20の感傷的練習曲

15 Etudes brillantes pour piano, Op. posth.[Paris, Grus, 1864] ピアノのための15の華麗な練習曲(遺作)

【ピアノ4手連弾用】

15 Etudes élémentaires pour piano à 4 mains, Op. 46 [Paris, Grus, 1854] 国内版:連弾のための15の基礎練習曲[全音, 1999]

15 Etudes dialoguées pour piano à 4 mains, Op. 38 [Paris, Grus] 国内版:連弾のための15の対話的練習曲[全音, 1999]

15 Etudes de Salon pour piano à 4 mains, Op. 39 [Paris, Grus] 連弾のための15のサロンの練習曲

10 Etudes d’Expression pour piano à 4 mains, Op. 45 [Paris, Grus, 1854] 連弾のための10の表現の練習曲

10 Etudes caractéristiques pour piano à 4 mains, Op. 40 [Paris, Grus] 連弾のための10の性格的練習曲

10 Etudes dramatiques pour piano à 4 mains, sur les plus jolies Mélodies de Fr. Schubert, Op. 58 [Paris, Grus, 1861] シューベルトの旋律による連弾のための10の演劇的練習曲

ジュゼッペ・コンコーネ(1801~1861)は当時のイタリア人作曲家の常で始めはオペラの世界での成功を志したが、次第に声楽教師として名声を得、1837年からパリに定住、1848年の二月革命による政情不安を避けて郷里のトリノに戻り晩年を過ごしたというのが通説となっている。「コンコーネ50番」(Op. 9)を筆頭とする一連の声楽教本(Op. 9 のほか Opp. 10, 11, 14, 15, 17)はコンコーネの初期作品に属する。58番まで確認される作品番号のうち、20番台以降のほとんどをピアノソロ、連弾の曲が占め、コンコーネが声楽指導に加えてピアノ指導にも注力し、エチュードを中心とするピアノ曲を精力的に創作したことが見てとれる。総量で比較すると、ピアノのエチュードの分量が声楽教本を上回る。上記に挙げたピアノのエチュードはいずれもパリのグリュー社から、フランス名ジョゼフ・コンコーネ Joseph Concone の名義で、パリ時代の1841年から没後の1864年まで20余年の間に順次刊行された。コンコーネがこれら一連のエチュードを全てパリで書いたのか、トリノに戻ってからもグリューの委嘱で書き足していったのかは確定されず、今後の考証を要する。いずれにせよ、20世紀の初頭にかけてグリュー社版を底本に各国の大手出版社(ドイツのショット、イタリアのリコルディ、アメリカのシャーマー)からも続々と刊行され、「声楽教本のコンコーネの書いたピアノのエチュード」として国際的に普及したことは事実である。

グリュー社は、コンコーネの一連のエチュードにエコール・メロディーク(Ecole Mélodique 旋律奏法教程)とのシリーズ名を冠した。いずれのエチュードでも一貫して、メカニカルな鍛錬よりも、メロディをのびやかに歌い上げること、感情を豊かに表現することに主眼が置かれる。技術的には、平易なものでチェルニー100番練習曲程度、最も難しいものでも40番練習曲のレベルを超えない。初級から中級の学習者を対象とするブルグミュラー、ストリーボック、デュベルノアルモアーヌル・クーペ(ルクーペ)らのエチュードと同系統に属するといえるが、徹底して「歌うピアノ」を追求している点でコンコーネにはきわだった特色がある。もともとコンコーネは、声楽教本のピアノ伴奏パートでは簡素ながらも歌唱を最大限に引き立てる洗練された書法を見せている。コンコーネはベルカント唱法を熟知した声楽のスペシャリストであると同時に、卓越したピアニストでもあったのである。そのコンコーネが、声楽教本から声楽を取り去ってもなお、ベルカントの香気と妙味が凝縮されたようなピアノのエチュードを書いた意義は大きい。エチュードとして他に類例がないゆえんである。ピアノ教育の現場においても、学習者を鋳型にはめるのではなく、多様な個性を引き出す指導が求められる今こそ、コンコーネのピアノのエチュードにあらためて光を当て、積極的に活用すべき時であろう。

《シューベルトの旋律による連弾のための10の演劇的練習曲》Op. 58は、コンコーネの作品番号の付いた最後の作品である。出版譜には Oeuvre posthume(遺作)と明記され、本作が作曲者の没後に刊行されたことを示す。コンコーネの一連の連弾エチュードの中でも内容と難度の両面で最高峰といえる充実した作品となった。題名が示す通り、シューベルトの代表的な歌曲に取材し、コンコーネが独自のセンスで連弾用に編作したものである。技術面ではチェルニー40番練習曲の難度で、厚いテクスチャー、多用される半音階と連打の処理が難しい。各曲にはいずれもフランス語のタイトルのみが付されている。シューベルトの没後30年の時期にフランス語の訳詞が普及し、フランスで一般にも広く歌われていたことを示すもので、シューベルトのリートの非ドイツ語圏への伝播史の観点でも興味深い。150年前の選曲が現代にそのまま通用するというのも、シューベルトの歌曲の持つ尋常ならざる生命力の強さゆえであろう。ところで「ます」「死と乙女」「しぼめる花」などで知られるように、シューベルトは自作の歌曲をしばしば室内楽に転用した。ピアノ独奏曲にも《さすらい人幻想曲》があるのに、連弾にはついぞ自作の歌曲に由来する曲を書かなかった。シューベルトが連弾に特別の愛着を寄せ、連弾の正典ともいうべき幾多の名作を書いたことを思えば、惜しまれてならぬところである。コンコーネの本作はその未練を見事に晴らして余りあるものである。声楽・伴奏法・連弾の全てに通暁したコンコーネは、原曲の詩の世界を完全に咀嚼し、シューベルトの連弾の書法をもふまえて編作にあたった。同じ時代を駆けぬけるように生きたシューベルトへのオマージュが一貫して注ぎ込まれていることは言うまでもない。さらに、自由なイマジネーションあふれるオリジナリティをも発揮して、文字通りあざやかな演劇的世界を描き切った。そしてこれが、はからずもコンコーネ自身の絶筆となったのである。音楽史上の意義、教育上の有用性、芸術性の高さを兼ねそなえ、本家シューベルトの正典にも伍する連弾作品として着目したい。

以下、フランス語タイトル、邦題(ドイツ語原題に基づく一般的な邦訳)、ドイツ語原題、シューベルト作品番号、ドイチュ番号の順に記す。

第1曲 Les astres 星屑 [Die Gestirne D. 444] Maestoso sostenuto 4分の2拍子 ヘ長調

第2曲 Ave Maria アヴェ・マリア(エレンの歌 第3番) [Ellens Gesang III, Op. 52-6, D. 839] Andante espressivo 4分の4拍子 変ロ長調

第3曲 Au bord de la fontaine どこへ(「美しき水車小屋の娘」より) [Wohin?, Op. 25-2, D. 795-2] Allegretto grazioso 4分の2拍子 変ホ長調

第4曲 Amour secret ひそかな恋 [Heimliches Lieben, Op. 106-1, D. 922] Andante espressivo 4分の4拍子 変ロ長調

第5曲 Marguerite 糸をつむぐグレートヒェン [Gretchen am Spinnrade, Op. 2, D. 118] Moderato assai 8分の6拍子 ニ短調

第6曲 Le message d’amour 愛のたより(「白鳥の歌」より) [Liebesbotschaft, D. 957-1] Moderato 4分の4拍子[原作と拍子が異なる]ト長調

第7曲 La cloche des agnisants 臨終を告げる鐘 [Das Zügenglöcklein, Op. 80-2, D. 871] Andantino non troppo lento 4分の4拍子 変ホ長調

第8曲 On nous attend ブルックにて [Auf der Bruck, Op. 93-2, D. 853] Allegro vivace 4分の4拍子 変イ長調

第9曲 La jeune religieuse 若い尼 [Die junge Nonne, Op. 43-1, D. 828] Moderato 8分の12拍子 ヘ短調

第10曲 Le roi des aulnes 魔王 [Erlkönig, Op. 1, D. 328] Allegro vivace 4分の4拍子 ト短調

執筆者: 西原 昌樹

楽章等 (10)

1. 星屑 D 444

調:ヘ長調 

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4. ひそかな恋 D 922

調:変ロ長調 

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7. 臨終を告げる鐘 D 871

調:変ホ長調 

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8. ブルックにて D 853a

調:変イ長調 

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9. 若い尼 D 828

調:ヘ短調 

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10. 魔王 D 328

調:ト短調 

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