楽天的で軽快なD-durという調でも、このフーガは雰囲気が異なります。極端にドラマティックというわけでもなく、純粋で、清らかな時間がゆっくりと過ぎます。曲は宗教的、厳粛で、曲中に多くのストレッタが見られます。この事実から、複数の異なった声質を持った複数の歌手、あるいは複数に分けられた合唱隊が次々とテーマを歌うようなイメージで、天に祈るような、厳かな雰囲気とお考え下さい。

故にテンポは決して速くはありませんが、あまりにも遅すぎても間延びしてしまいますので、その辺りを吟味して下さい。

演奏に関して1つ注意があります。これはこの曲に限らないのですが、ピアノ奏法で気をつけなければならないのは、同じ音が連続するときです。このフーガのテーマのように、最初3つが同じ音になるとき、細心の注意を払います。この3つの同じ音は音量によっては大変乱暴に、平坦に、耳障りに聞こえかねません。テーマがたとえ、フォルテのセクションであっても、最初の3つの連打は少し音量を制御すると良いかもしれません。あるいは、4つ目の音に向かって徐々に音量を上げるようなシェーピングでも良いかもしれません。いずれにせよ、この連打音が耳障りにならない工夫をして下さい。