バッハ :第12番 前奏曲とフーガ 第12番 前奏曲 BWV 881 ヘ短調

Bach, Johann Sebastian:Prelude und Fuge Nr.12 Prelude Nr.12 f-moll

作品概要

楽曲ID:62189
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:4分40秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

演奏のヒント : 大井 和郎 (3602文字)

更新日:2018年3月12日
[開く]

第12番 ヘ短調 【プレリュード】

この2拍子のプレリュードほど人によってテンポが異なる曲も珍しいかもしれません。かなりゆっくりな人もいればかなり速い人もいます。一般的に、2拍子という拍子はバロック時代は割と速い拍子として定着してきましたので、筆者がこれを演奏する場合、どちらかというと速いテンポになりますが、学習者は自分の判断と感性でテンポを決めて頂いて構いません。

このプレリュードは前半と後半にきれいに分かれており、一目瞭然です。1-28小節間が前半で、29-70小節間が後半ですね。このプレリュードのピークポイントは後半、29-57小節間のどこかだとお考えください。ご自分のインスピレーションで大丈夫です。このプレリュードを仮に3つに分けるとしたら、1-28、29-56、57-70、と分かれると思います。それではまず前半を見てみましょう。

特に際立ってテンションが高まる部分は前半には無いような気がします。強いて言えば16小節目くらいでしょうか。それにしてもそこまで気持ちは高ぶりません。このプレリュードは大雑把に考えるとほぼ4小節単位で新しいフレーズが始まるとお考えくださって間違いありません。前半も同じです。厳密には1小節目から4小節目の1拍目で一区切りになります。この4小節間には細かいフレーズが各小節に1つずつ入り、合計4つのフレーズがあります。最も高い声部を抜粋すると次の4つになります。

 1 As As G   2 B. B. As   3. As As G   4. F F. E  

この4つのフレーズにはそれぞれ3度、または6度下の声部があります。そして各4つともダブルサスペンションの形をたどります(ダブルサスペンション=前の小節にある和音の音を次の小節まで引っ張ってくること、これがシングルではなく3度や6度など重音2つ、同時に起こること)。つまり、1小節目はCEGで構成されていますので、CGE以外は非和声音になります。この1小節目1拍目の表拍に入り込んでいる非和声音は、前のアーフタクトの和音を1小節目まで引っ張ってきている事になります。故に、この場合、右手As と F は、前の小節の音であり、非和声音ですね、 そしてそれがGとEに裏拍で解決されますね。故に、裏拍はディミヌエンドの形をたどり、ここにはアクセントは付きません。

そして2小節目。1小節目2拍目の和音である、CEGBの GBが次の小節に入り込んでいますね。

そして解決されます。この繰り返しになります。故に、1-4(上記)の3つの音の中でゴールの音は真ん中の音になり、この真ん中の音に向かい、3つめの音でレゾルーション(解決)になります。

そしてこの4つを比べたとき、1つ目よりも2つ目の方が2度高いので2つ目は1つ目より大きくします。3つめは7度も高い位置にありますのでここに向かって行き、4つめは再び2度下がりますので、3つめよりは音量を落とします。4つめの音量を落とすもう一つの理由は和声的な理由からになります。

アーティキュレーションは自由です。テンポによっても変わってくると思います。これで1-4小節目の分析ができましたね。あとは、ここを弾くときに注意するのは右手のバランスです。3度や6度を右手で弾くとき、下の方の声部が1の指になることが多くあります。結果、必要以上に大きく出すぎてしまう事になります。くれぐれも1の指は力を抜いて、きれいなバランスを保ってください。

次に4小節目2拍目より、8小節目2拍目までの音型を追います。8分音符で棒が下に向いている音は、左手でとります。それらを抜粋すると、E F D E G F D E  になりますね。裏拍に出てくる16分音符3つは右手でとります。右手の音程を抜粋すると、5 6 4 5 7 6 4 5になります。音程が広い場所が、テンションが高まる部分ですので、右手が7度になるところをゴールとして目指しますと、左手の最も高い音である G と一致します。これはもうここを目指してほぼ間違いが無いということになります。

人によっては、ここの部分を2つに分けて考える人もいます。EFDEとGFDEです。これでも勿論構いません。2つに分けて考えたとき、両グループの最後の音であるEは弱くなり、アクセントはつきません。和声的に解決しているからです。 次の4小節は冒頭の繰り返しですが、後半(11-12小節間)が異なります。f-mollの平行調であるAs-durに転調します。ここから、20小節目1拍目までAs-durのまま、冒頭8小節間と同じに見えますが、12小節目2拍目より4小節間、1-8小節間には存在しなかった新たな4小節間が加わります。そしてこの4小節は、8小節目2拍目より始まった新たな4小節の延長になり、最終的に、このセクションで最も高い音であるAsに到達します(15-16小節間右手)。

本来であれば、f-mollの平行調であるAs-durは、f-mollに比べて遙かに柔らかな調として登場しますね。ですから音色を変え、柔らかに行きたいところなのですが、12小節目2拍目以降はテンションは高まる一方です。12小節目2拍目よりクレシェンドをかけて15小節目2拍目に達して良いと思います。そのクレシェンドの程度は奏者に委ねます。

そして16小節目2拍目より、4小節目2拍目と同じ音型が繰り返されますので、8分音符の音を追ってみましょう。G As F G B As F G となり、これは4小節目2拍目から8小節目2拍目までの音型ととても似ていますね。ところが注目して欲しいのは右手の音程です。抜粋してみましょう。 5 6 4 5 7 6 7 8 となり、4小節目2拍目からとは打って変わって、テンションは一気に高まります。音程が広くなるに従ってクレシェンドをかけて良いと思います。そしてクレシェンドをかけテンションを高めたら、20小節目2拍目より、24小節目2拍目まで、また新たな音型をたどりながらディミニュエンドをかけます。

さてこの、20小節目2拍目からの音型ですが、今までには無いパターンですね。左手の流れを見ると縦割りの音楽ではなく、横にスムーズに流れていく音楽であることが解りますね。そうなると右手の16分音符もレガートに弾いてみたくなるものです。ところがそこにネックがあります。それは右手16分音符の連打音です。Ges As C Es Es C As F F G B Des Des B G Es~ 16分音符4つの最後の音、4つ目の音は、次の4つの音の最初の音と同じです。次の4つの最後の音もまた、次の4つの最初の音と同じです。

そしてここが、レガートにできない場所になります。そこで、このEs Es や、FFなどの連打音が来る瞬間にペダルを一瞬居れます。そうすることで、連打音がレガートになります。そしてそれだけではありません。バスの音も、C Des B D ~ と連打音と同じ場所で変わりますので、バスの音も切れずに先に進むことができます。

また、このパターンはシークエンスのパターンで2度ずつ下行していますので、24小節目2拍目までディミヌエンドをかけていきましょう。 24小節目2拍目以降、再び、4小節目2拍目の音型が現れます。両手は徐々に広がるパターンですので、27小節目に向かって再びクレシェンドをかけ、28小節目急激なディミヌエンドで終わります。

29小節目以降、As-durで冒頭の素材が演奏されますが、b-mollへ転調します。31-32小節はとても圧迫を感じる終わり方であり、テンションは一気に高まります。一見es-mollで終わるように感じるかもしれませんが(32小節目)、実際はb-mollのサブドミナントになります。

学習者がよく犯す譜面上のミスとして、38小節目の右手のタイにあります。1拍目裏拍のFか2拍目にタイがかかっているので、学習者は2拍目の音を弾き直さないことが多いのですが、2拍目のFは棒が2本上下に出ています。タイがかかっているのは上声部のFと考え、下声部のFは別声部と考えますので、この音は弾きます。

40小節目より、2小節単位でシークエンス下行形が来ます。44小節目の2拍目からテンションは一気に上がります。そして、56小節目1拍目で一区切り付きます。ここまでのダイナミックは奏者に委ねられます。多くの奏者は52小節目2拍目より音量を落としますが、筆者であればそこも強いテンションを感じますのでフォルテのまましばらく進むと思いますが、これは主観的ですので、奏者の自由です。

56小節目2拍目より冒頭の素材が戻ってきて、異なった3つの素材をコンパクトにまとめて70小節目で終わります。

執筆者: 大井 和郎