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伊藤 謙一郎 :《アエストゥス》

Ito, Kenichirou:"Aestus" for piano

作品概要

作曲年:2018年 
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:★ 種々の作品 ★

解説 (1)

解説 : 伊藤 謙一郎 (1240文字)

更新日:2019年5月14日
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50歳を迎えるにあたり、自分の「生い立ち」を振り返り、そ数々の必然・偶然の出来事の集積(そしてそれはまさに今も現在進行形なわけですが)が私にとって大きな意味をもっていることを改めて強く感じました。それとともに、さまざまな事象や出会いによって常に影響を受けて「変化」した(しつつある)自分と、生来の性格や志向に縛られた変え難い「不変」の自分がいて、「変わるもの」と「変わらないもの」を捉え直す機会ともなりました。

  タイトルの「AESTUS」(アエストゥス)は「炎」や「波」(あるいは「炎熱」「うねり」「情熱」「激情」など)を意味するラテン語ですが、この曲はそれらの様相を音で描こうとしたものではなく、作曲の基本的なアイデアを言葉に置き換えたに過ぎません。そのアイデアは、今から22年ほど前に書いた木管五重奏曲やピアノソロ曲(今回の曲はそれ以来の2作目になります)と共通する部分があり(もちろんそれらの作品を書いたときと今とでは創作における意識も姿勢も異なりますが)、さらにもう一歩推し進められないかという課題としていつも頭の片隅にありました。「炎」も「波」も一つの事象ながら、その形象は常に流動的です。作曲上のアイデアを表す言葉であるとともに、前述の「生い立ち」の一部分を成す20数年という時間の中での自身の創作での変化・不変のありようを象徴する言葉としてタイトルにしました。

  曲は、最小で1.1秒、最大で51秒の長さをもつ複数の断片を結合して構成されています。それらの断片をつくるにあたっては次のような外面的特徴をもつ7つの素材を単独で、あるいは断片の中での主要度・使用頻度の観点で「主素材」「副素材」に設定して組み合わせています。

  (1)連続的フレーズ(同音反復)

  (2)連続的パッセージ(音高変化)

  (3)分節的フレーズ(同音反復)

  (4)文節的パッセージ(音高変化)

  (5)短い持続性をもつロングトーン(同音反復)

  (6)短い持続性をもつロングトーン(音高変化)

  (7)長い持続性をもつロングトーン(音高維持)

  上記の素材は、さらに「前打音」「大幅な跳躍音型」「和音形態」といった副次的要素を特定の周期で伴って現れます。また、8つに区分した音域のどれを使用するかも厳格に適用し、「主素材」「副素材」の組み合わせがすべて異なるよう配置されています。

  なお、音高の要素としては、「AESTUS」の初めの3文字「A」「E」「S」からそれぞれ「A音」「E音」「Es音」を導き、この3つの音を曲全体の支配音と位置づけています。そして3つの音を核に複数の音列を作り、水平的(フレーズやパッセージ、断片の中心音)にも垂直的(音響体)にも限定性をもたせています。

  このような素材や諸要素を一定の規則で配置・変換することで、「変化」と「反復」のさまざまな様相が1つのテンポ(♪=126)での時間の流れの中で織り成され、かつ統一的な音楽表現を創出する試みを行っています。

執筆者: 伊藤 謙一郎

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