出版: Paris, Simon Richault, ca 1872
献呈:La mémoire de L. de B.
第1 番「小二重唱」 ホ長調 十分に遅く
歌曲集シリーズを締めくくる第5 集の第1 曲。曲集全体は「小二重唱」―「(アンダンティネット)」―「(アレグロ・ヴィヴァーチェ)」―「スケルツォーゾ= 合唱」―「バルカロール」の6 曲からなり、5 曲目と6 曲目の間にはそれまでに登場した曲の素材をまとめた小曲「要略」が収められている。
第1 番は単一の主題とその展開に基づく無言歌風の作品。この曲は右手と左手の「二重唱」と考えればよい。はじめは中声部にシンプルな主題旋律が置かれる。鮮やかなト長調への転調(8 小節)で開始される中間部の第14 小節からは右手の小指に歌が移る。ここまでに2 つの声部が現れたが、この時点ではまだ「重唱」を成さない。20 ~ 23 小節にかけては、2 つのパートが歌い交わす。これが両者の最初の「出会い」。再現部で初めてバスとソプラノの音域で2 つの旋律が同時進行し、相携えて「重唱」を奏でる。再現部に続いて突如主題合唱風の楽想が主題のリズムで現れる。コーダでは主題が単旋律とユニゾンで強調される。
旋律の一音一音に対して和音が繊細に変化するので、ペダルの踏替えには十分注意を払うこと。分散和音は常に旋律を彩る背景なので、旋律を覆ってしまわないようタッチに気を配ること。コーダでは両手のロ音に対し、いわゆる「フィンガー・ペダル」の技法が求められるが、現代のピアノではソステヌート・ペダルで対処することも可能。
出版: Paris, Simon Richault, ca 1872
献呈:La mémoire de L. de B.(*1)
第4 番「楽器の声」、アンダンティーノ、イ長調
「楽器l’instrument」とはピアノを指すのだろうか。中声部に置かれた旋律の持続を保つためにフィンガー・ペダルの技法が要される(例 2-4 小節目)。同様の箇所において、旋律を指で残したまま他の和音を弾くことができない場合はソステヌート・ペダルを使う。ソステヌート・ペダルがなく、フィンガー・ペダルで
も対処できない場合はダンパー・ペダルで旋律の音を残しつつ和音を弾いた直後に音が出ないように旋律の音を押さえ直し、すぐにペダルを上げるのも一つの方法。
*1)第5 集の献呈先、献辞「L. de B. の想い出に」が誰を指すのかは判然としない。アルカンが好んで演奏し編曲も行ったベートーヴェンのフランス語表記「ルイ・ドゥ・ベートーヴェンLouis de Beethoven」のイニシャルではないか、とは金澤攝の説。