第11番 夕べの調べ
第2版にも第3版にも言えることなのですが、リストが表示する「animato」という表示は、「活気を持って」と捉えるほうが賢明であると感じます。これを「速く」と捉えてしまうと色々な問題が起こってきます。少しテンポを前に持って行く時、彼は「mosso」を使います。これらの用語は作曲家によってそれぞれ癖があり、少なくともリストの場合、メトロノーム記号のような実際の速度表示ではない場合が多くあります。そのような意味で、彼の使う「Lento」はとても典型的です。拍の速度ではなく、全体の雰囲気を描写しています。
つまり、poco animatoを見たからといって、そこから新たなテンポを作ってしまうと、セクション同士のつながりが切れてしまい、恰もテンポの異なった多くの曲を演奏しているように聴こえてしまいます。そしてそれだけではありません。それまで構築してきたテンションが一気に崩れてしまいます。リストのanimatoなどの表示は本当に気をつけなければなりません。仮にリストが新たなセクションでテンポチェンジを望んでいたと仮定しましょう。たとえ、そうであったとしても、突然別の曲が始まるような変え方ではなく、前後と繋がるように、テンションを保ちつつ、スムーズに変えていかなければなりません。
もう1つ考えなければならないことはリストの書くfffマーキングです。これはリストだけではなく、他の作曲家にも共通して言えることなのですが、fffマーキングは、全体的な音量を意味し、1つ1つの音の大きさではありません。特にリストのように、メロディーラインよりもその他の声部に大量の音が書いてある作品が多い作曲家の場合、他の声部がメロディーラインを聴こえなくしてしまいます。fffを見たとしても、実際に演奏される内声はpであることもしばしばあります。 例:第3版 98小節目以降 第2版 128小節目以降 全体を合わせてfffに聞こえれば良いのであって、すべての音をfffではありません。これは覚えておいてください。それとは逆に、彼の作品を演奏するにあたってとても辛いのがppマーキングになります。昔のピアノは現代のピアノとは異なり、そこまで音量は出なかったものと想定されます。
しかし、そうであったとしてもなくても、あれほど多くの音が書かれてあると嫌でもfになってしまうのに、そこにppが書いてあると本当に大変です。
このようなセクションを演奏する時は、まず全部の音をフォルテシモで練習しておいて、それから音量を落とすようにします。はじめからppで弾こうとしても今度は音が抜けたりという問題が発生するからです。 例:第3版 38小節目以降 第2版 37小節目以降 結論として、第2版も第3版も、夕べの調べ を演奏する時は、バランス(ダイナミックマーキングを鵜呑みにしない)と曲の流れ(急に新しいテンポを作らない)を大切にしてください。