フンメル :フルートソナタ 第3楽章 Op.50

Hummel, Johann Nepomuk:Sonate für Flöte und Klavier Mov.3 Rondo: Pastorale

作品概要

楽器編成:室内楽 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:4分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

解説 : 今野 千尋 (1795文字)

更新日:2019年3月6日
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第3楽章 Rondo pastorale、ニ長調、4分の2拍子

 第3楽章はソナタ風ロンド形式形式で書かれている。ピアノの軍隊風のリズムから始まるが、直ちにフルートによる主題とピアノが奏でるバグパイプなどの土俗的な保属低音によって、「牧歌的pastporale」な性格が提示される。ところが、意表を突く同主短調のロ短調のV度(フェルマータ)で半終止し、モーツァルト的諧謔味を帯びた序曲風の様式へと一転する。フェルマータを用いた中断は、abruptioという修辞法である。これは沈黙が予想されないテクスチュアの中に沈黙が置かれるものだ。むろん、ここで即興的な装飾が入ることは可能だが、流れの中断を強調することによって、続く楽想の急転、すなわち田園的な性格と劇場という都市的な性格の対比が際立つ。この主題は何度も繰り返されるが、フェルマータの際には、これより先、ピアノのフィオリトゥーラが記譜されている。

 ところで、フルートの主題(a1)は、後に展開される、名高い対位法主題(モーツァルトが《交響曲第41番 ハ長調 「ジュピター」》K.551で展開した「ド-レ-ファ-ミ」の音列)のアナグラムになっている(階名で([ソ-]レ-ファ-ミ-ド=[a-] e-g-fis-d)。この牧歌的主題は、上述の諧謔的な性格へと変わり、ピアノに受け継がれる。第2主題への推移部でも、「ジュピター」のモチーフと類似した音型がシンコペーションで強調される(第33-34小節、d-cis-g-fis、階名では-シ-ファ-)。このモチーフは、モーツアルトの交響曲やミサ曲でよく用いられた。これ自体はグレゴリア聖歌からとられたもので、18世紀には賛歌《輝く創造主 Lucis creator》の冒頭部分として、広く知られていたものである。またモーツァルトが学び、また自分の弟子の教育にも使用した、フックス流対位法の常套音型であり、パレストリーナからブラームスまで、何十人もの作曲家の作品に登場する。フンメル自身も、本ソナタに先立って、ピアノ曲(《ピアノ・ソナタ》op. 20の3楽章)で用いている。

 属調の第2主題は、先の主題に対して、音階と分散和音から成る流麗な技巧的音型で構成され、流れが中断されることもない。ピアノとフルートが協奏的に分散和音と音階を奏で合う。

展開部では、フックスの主題がト長調で表れる。ト長調のド-レ-ファ-ミのモチーフのあとの和声進行が、モーツァルトの《交響曲第41番 ハ長調 「ジュピター」》K.551の第4楽章の第1主題と非常に似ており、恩師モーツァルトへのオマージュとも見ることもできる。この主題は変ホ長調、ヘ長調、ト短調と段階的に転調していく。

ジュピターのモチーフが二つの楽節(c1, c2)を通して4度提示されたのち、第113小節から動機労作による展開が始まる。展開されるフルートの動機は、ジュピターのモチーフの変形であると同時に、旋律の動向(跳躍下行⇒順次上行)から見て、第1主題の拡大形と採ることもでき、提示部からの一貫した文脈のなかに「ジュピター」の動機が位置づけられる。

再現部は、再び第一主題が牧歌的性格とブッファ的性格を対比させ、後者ではフルートが同音反復でピアノを伴奏する。続く推移では、提示部で聴かれた「ジュピター」の動機へのほのめかしはもはや示されない。これは、展開部で十分にこれが展開されたからであろう。第二主題の華麗な性格を保持したまま、楽章のクライマックスが導かれ、何度も完全終止が先延ばしされ期待を高めたのちに、ようやく、185小節でコーダに入る。

コーダは田舎風のドローンに支えられた第1主題が回想されたのち、a’を特徴づける陽気な楽想によって華麗に閉じられる。

*〈形式図の見方〉

この表の見方この形式図は、各段を左から右へと読み、1段目、2段目・・・と上段から下段へと追っていく。 楽曲の構造上、共通する要素が縦に並んでいるため、どこでどのモチーフが表れているのかが一目で分かるようになっている。なお、各段の数字等の役割は、次の通り。 1行目:セクション名、2行目:小節数、3行目:モチーフ及びモチーフの小節数、4行目:調、 5行目:カデンツ(pedはドミナントの保続低音) 枠外下部の「!」は、カデンツの中断など、聴き手の期待から意図的に逸れる箇所を表す。

執筆者: 今野 千尋

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