フンメル :フルートソナタ 第1楽章 Op.50

Hummel, Johann Nepomuk:Sonate für Flöte und Klavier Mov.1 Allegro con brio

作品概要

楽曲ID:49199
楽器編成:室内楽 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:8分30秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

解説 : 今野 千尋 (1374文字)

更新日:2019年3月6日
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第1楽章 Allegro con brio、ニ長調、4分の4拍子

第1楽章はソナタ形式で書かれている。4小節の序奏では、フルートとピアノの輝かしいtuttiで始まる。これは、同時代の交響曲の典型的な身振りである。その後、フルートによって第1主題が提示される。第1主題は大きく2つのモチーフa、bから成る。aは展開部でも用いられるほど、この楽章の核となっているモチーフである。一方、モチーフbは展開されない代わりに、多くの修辞的効果を含んでいる。まず、リズム的・調的な安定は、旋律楽器が担うシンコペーションによる半音階的上行(第28~30小節、音楽修辞法ではpassus duriusculusと見なしうる音型)によって脅かされる。この不安を伴う音楽的予兆は、第31小節におけるイ長調から変ロ長調への突然の転調によっていっそうはっきりしたものとなる。変ロ長調から、ホ短調、イ短調と様々な調に変化していき、第2主題が導かれる。

第2主題は、なおも聴き手の意表を突くかのように、ハ長調から始まり、行進曲風のリズミックなモチーフを特徴とする。第52~57小節にかけては、再び楽句aで見られた、シンコペーションによる上行半音階がいっそう長い範囲にわたってフルートに現れ、不安定な情緒を強める。このパッセージは、修辞的効果と同時に、異名同音を使った半音階的な遠隔転調で、最終的にイ長調に推移するためのプロセスとしても機能している。小結尾への推移は、両楽器が協奏的に華麗な楽句を奏で、小結尾にてイ長調に終止する。

展開部は、ニ短調から始まり、種々の調を経ながら第1主題のモチーフaが変化していく。変ロ長調では、フルートによる主要モチーフa1がピアノによって奏でられるオーケストラ風のトレモロの上で堂々と奏でられるが、すぐに他の調で反復され、変ホ長調に至る。第118小節では、カデンツによって確立されたこの調で、ピアノが第1主題を奏でる。この時、聴き手は主題再現がはじまったかのような印象を受けるが、実際には「偽の」再現である。「真の」再現は、ロ短調による新たな推移の後にようやく始まる。

再現部には、展開部で十分扱われなかった第2主題の展開が見られる。特に注目されるのは、第170小節に見られる変ロ長調への逸脱で、ここでは第2主題のリズムをバスにおいて、それまでに現れなかった対位法により半音階的な旋律が聴き手を強く印象づける。この部分の半音階的な扱いは、提示部における半音階(passus duriusculus)が提示部で全く扱われなかったことを補う意味もあるだろう。その後、既出のモチーフの若干の展開(第176~186小節)を経て、推移部が華麗に再現され、結尾を導く。

*〈形式図の見方〉

この表の見方この形式図は、各段を左から右へと読み、1段目、2段目・・・と上段から下段へと追っていく。 楽曲の構造上、共通する要素が縦に並んでいるため、どこでどのモチーフが表れているのかが一目で分かるようになっている。なお、各段の数字等の役割は、次の通り。 1行目:セクション名、2行目:小節数、3行目:モチーフ及びモチーフの小節数、4行目:調、 5行目:カデンツ(pedはドミナントの保続低音) 枠外下部の「!」は、カデンツの中断など、聴き手の期待から意図的に逸れる箇所を表す。



執筆者: 今野 千尋

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