このソナチネの重要なポイントは2つあります。1つはダイナミックのコントロールです。この第1楽章はエコー的な要素も多く含まれており、強弱の差をはっきりと出すことが重要になります。
奏者は強弱記号をよく読み、従って下さい。ただしこれは古典派の作品です。ショパンやリストのような強弱ではなく、品性を保った強弱とでも言いましょうか、感情を出さない範囲内での強弱となります。
もう1つは軽さや品の良さです。このソナチネは、当時盛んだった弦楽四重奏を背景に作曲されたのではなく、伴奏とメロディーの、どちらかというとホモフォニー的な書法で作られています。しかしながら、メロディーのアーティキュレーションは弦楽器のボーイングを連想されます。ヴァイオリンと小編成のアンサンブルのような組み合わせと考えて良いと思います。
さてこの曲には技術的に難しい箇所が2カ所あります。1つめは13-18小節間の右手です。指番号を考えてみましょう。まず、14小節目、1拍目は4321を使うのが最も簡単かと思います。2拍目のFにも行きやすいですね。そうなると前の小節の13小節目、2拍目は自然とこちらも4321を使わないと14小節目につなげません。ですからここも4321を使います。問題は13小節目の1拍目です。ここを5432にするか4321にするかは奏者次第です。
結論から申し上げますと、5432のほうが4321より難しいと思います。5432を使うと、
Bを4の指で弾くことになります。黒伴は高い位置にありますから、この543という、もっとも言うことを聞かない指を使ったとき、4だけが高い位置にあり、結果、粒ぞろいが乱れたり、ムラが生じる恐れがあります。奏者が自信の無いときは4321で一貫してしまった方が無難です。
しかしながら、いつでも簡単な道を選ぶ癖が付くと自分の為にもなりません。時間に余裕のある人は思いきって5432を使ってみましょう。それで上手くいかなければ、53-4 53-4
という運動や、3を押さえながら54のトリル、4を押さえながら35のトリル、5を押さえなが
ら34のトリルなど、あらゆるコンビネーションでトレーニングすると良いでしょう。
次に難しい箇所は、34-35小節間の左手です。13-18小節間を散々練習した学習者であれば、ここの34-35小節間の右手はさほど問題無いはずです。しかし、左手が出てきて、右手とぴったり合わせるのは大変ですね。このパッセージ、指番号はもちろん1234です。まちがっても2345などは使わない方が良いと思います。ここも、13-14小節間で行ったトレーニングと同様に、234の指が自由に言うことを聞くように、あらゆるコンビネーションでトレーニングしてみてください。