短調で6/8拍子のプレストという、颯爽とした雰囲気を醸し出す楽章である。楽章冒頭の主題は、ホモフォニックでピアノが旋律を担い、和声は主音イ音上に止まる、という画一的印象の4小節のあと、ヴァイオリンが対旋律に一転、ポリフォニックで和声変化も速い8小節が続く。かと思えば次にはピアノとヴァイオリンの平行へ……こうしたテクスチュアの変化のおかげで、提示部前半は形式的な区切りが明確である。副主題以降は二つの楽器がより対等に絡み合うようになり、また模倣書法が多用される点では主要主題と対照的である。しかし調はよくある平行長調や同主長調にはっきりと変わるのではなく、短調にほぼ終始して緊張感を保ったままになる。展開部序盤で現れる短い長調部分が強いインパクトを持つのは、この副主題以降の調構造が一つの原因だろう。
展開部は大部分が既出の楽想を並べて作られているのだが、注目すべきはおよそ90小節というその規模である。しかも途中で再現部の到来を予想させるような属音上のフェルマータが入るため、この後で再現部にならないと分かった時にはますます展開部が長く感じ、焦らされる思いになるかもしれない。再現部の主題の音域が上下にオクターヴ拡大され、フォルティッシモで強調されるあたりも、遅らせただけ強調するという身振りに見える。
形式面でもう一つ付言すべきは展開部以降の繰り返しがあることだ。少なくともベートーヴェンは弦楽四重奏曲op. 18, op. 59の短調作品でも、ソナタ形式の第1楽章で展開部以降の繰り返しを指示している。