アルカン, シャルル=ヴァランタン :大ソナタ 第1番 Op.33

Alkan, Charles-Valentin:1re grande Sonate Op.33

作品概要

楽曲ID:4684
出版年:1847年 
初出版社:Brandus
献呈先:Alkan Morhange
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:40分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (3)

総説 : 上田 泰史  (1478文字)

更新日:2018年3月12日
[開く]

アルカンの《大ソナタ》作品33は、第二次大戦後、ピアノ音楽史における画期的なソナタとして注目されてきた。20世紀半ばに活躍したピアニスト、レイモンド・ルウェンサールRaymond Lewenthal(1923~1988)は、1964年に出版したアルカン作品集の序文でこの曲を「アルカンの発展とピアノ音楽史における宇宙的大事件」と評し、また、アルカンの研究と演奏の両面で業績を残したロナルド・スミスRonald Smith(1922~2004)は「その世紀[19世紀]のもっとも際立ったピアノ作品」と位置づけている。フランスの音楽学者ブリジット・フランソワ=サペBrigitte François-Sappeyは、このソナタに関する論考においてこのソナタを「ロマン主義的『大作』の範例の一つ」として紹介し、結論では「リュードの彫刻、ドラクロワのフレスコ画、ベルリオーズの交響曲に並ぶフランス・ロマン主義の記念碑」に値する作品と位置づけている。

 ・ジャンル史における意義  アルカンのソナタの重要性は、作品の序文、文学的含意豊かな標題、独自の調構造、楽章間を関連付ける動機の操作、野心的ピアノ書法等、様々な点から指摘されているが、これらは、とりわけピアノ・ソナタというジャンルの歴史において意味をもつ。大革命後のフランスにおいて、ソナタは次第に時代遅れのジャンルと見做されるようになっていた。1853年にフランスの音楽雑誌『ル・メネストレル』の批評家レオン・ガタイェスは、当時の一般的なピアノ・ソナタの評価を次のように記している。 ソナタはポプリに取って代わられ、ポプリはカプリースと幻想曲によって王座から引きずり下ろされ、今度はこれらが奇抜なタイトル[の諸作品]に道を譲る宿命にあったが、そうした諸作品の一覧は長くなるのでこの紙面では足りないだろう(1)。

18世紀後半の主要な創作ジャンルだったソナタは、1830年代までに俗謡やオペラの主題に基づくポプリや変奏曲、幻想曲、性格的小品に人気を奪われていた。その背景には、産業革命が促したピアノの機構上の「改良」とともに、ピアニスト兼作曲家の関心が新しい演奏技術を活用しうる名技的なジャンルへと向かったこと、市民社会におけるピアノの普及とともに、複数の楽章からなる大規模作品よりも、即興曲やノクターンといった家庭の子女向けの手ごろな小品の需要と出版が増大したことが挙げられる。

だが、1840年にショパンが《ピアノ・ソナタ 第2番》作品35をパリで出版したころから、作曲家たちの間でソナタは再びその重要性が認められるようになる。世紀中葉、1830年代から40年代に探究された新しいピアノ演奏技法が古典的形式と結びついて、ソナタは再び創作の場として地位を取り戻そうとしていたのである。

実際、アルカンがピアノ独奏用のソナタに挑んだのは《大ソナタ》作品33が初めてだった(初版のタイトルは《ピアノ独奏のためのソナタ 第1番(1ère Grande sonate pour piano seul)》である)。前途有望な33歳の若きアルカンにとって、ソナタはそれまで追究してきた比類ない演奏技巧と作曲における進取気性を統合し、ベートーヴェン以降のソナタの方向性を示しうる創作ジャンルであった。

*楽曲の分析的総説は「楽曲分析」の項目を参照のこと。

 (1)  Léon GATAYES, « Une sonate », Le Ménestrel., 20e année, n° 25, le 22 mai 1853, p. 3.

執筆者: 上田 泰史 

成立背景 : 上田 泰史  (4322文字)

更新日:2018年3月12日
[開く]

楽曲分析 : 上田 泰史  (12391文字)

更新日:2018年3月12日
[開く]

楽章等 (4)

第1楽章 <20歳>

調:ニ長調-ロ長調  総演奏時間:5分40秒 

動画0

解説0

楽譜0

編曲0

第2楽章 <30歳――ファウストの如く>

調:嬰ニ短調-嬰ヘ短調  総演奏時間:13分00秒 

動画0

解説0

楽譜0

編曲0

第3楽章 <40歳――幸せな家庭> 

調:ト長調  総演奏時間:11分30秒 

動画0

解説0

楽譜0

編曲0

第4楽章 <50歳――縛られたプロメテウス>

調:嬰ト短調  総演奏時間:9分30秒 

動画0

解説0

楽譜0

編曲0

現在視聴できる動画はありません。  

楽譜

楽譜一覧 (0)

現在楽譜は登録されておりません。