バッハ :カプリッチョ 「最愛の兄の旅立ちにあたって」 アダージョッシモ BWV 992

Bach, Johann Sebastian:Capriccio 'Sopra la lontananza del suo fratello dilettissimo'  Adagiosissimo

作品概要

楽曲ID:45735
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:カプリス
総演奏時間:2分50秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

演奏のヒント : 大井 和郎 (496文字)

更新日:2023年10月30日
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実際にはf-mollの曲であることは明らかなのですが、この3つ目の楽章だけは調号にフラットが3つ書かれていて(f-mollは本来フラットが4つ)、これはミステリーです。

f-mollというのはバッハが扱う調の中ではもっとも悲しみを表現する調であり、他のバッハのf-mollの作品、例えばインベンション、シンフォニア、平均律等を思い浮かべれば、納得できると思います。純正律では、フラット4つというのは、綺麗な響きを保つためにはギリギリのボーダーラインでした。これ以上は増やせませんでした。故に、f-mollはそれほど身構えて聴くような特別な調でした。

加えて、この時代で半音階的進行というのはある種のタブーであり、作曲では違反行為でした。しかし作曲家達はそれを使ってでも、悲しみや絶望の世界を表現しようとしました。半音階的進行はまさに湾曲した世界であり、希でした。この曲はその中でも特に半音階的進行がこれでもかと言うほど多く書かれてあり、これは人間の泣き声の描写であり、やり場のない悲しみであることは明らかです。

奏者は、故に、この楽章を可能な限り重々しく、悲痛な叫びを表現するように演奏して下さい。

執筆者: 大井 和郎
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