close
ホーム > 八村 義夫 > 彼岸花の幻想

八村 義夫 : 彼岸花の幻想

Hachimura, Yoshio : Meditation higan-bana

作品概要

楽曲ID: 4285
作曲年:1969年 
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:種々の作品
著作権:保護期間中

解説 (2)

解説 : 須藤 英子 (329 文字)

更新日:2018年4月25日
[開く]

《彼岸花の幻想》は、1969年に桐朋学園子供のための音楽教室の委嘱により作曲された。楽譜は、同音楽教室編『こどものための現代ピアノ曲集II』に収められている。

作曲者の八村義夫は、幼少期に見た彼岸花の鮮烈な印象をもとに、「透明で不吉な予感」を意図しながらこの曲を創作した。楽譜には拍子記号がなく、演奏者はその時々の音の表出に従って、音楽的時空間を形成していくことが求められる。フェルマータとブレス記号がそれぞれ3種類用いられ、至る所に様々な指示が書き込まれている。

曲は3部形式による。下降する不吉な3音、 激しく執拗な不協和音とトリルによる提示部に続き、明るく美しい響きを一瞬漂わせる中間部が現れた後、冒頭の不気味な音風景が短く再現され、曲は幕を閉じる。

執筆者: 須藤 英子

演奏のヒント : 杉浦 菜々子 (491 文字)

更新日:2025年10月23日
[開く]

八村義夫は、短い生涯の中で強烈な音楽を残した作曲家です。1969年桐朋学園「子供のための音楽教室」の委嘱により作曲されました。八村は本作について、次のように述べています。

「この作品は、“拍(beat)が存在しているという印象”なしに演奏される。演奏者は、その時表出された音に応じて、“音楽空間ー時間を〈緊張〉〈弛緩〉”の多様な段階に流動させてゆく“ようであってほしい。」

つまりこの作品では、あらかじめ決められた拍子やテンポが時間を支配するのではなく、一つ一つの音が鳴るたびに、その音が新しい空間を生み出し、時間の流れをつくっていきます。音そのものが呼吸のように場を変化させ、それが積み重なって独自の「時間=空間」の感覚を形づくっていきます。

演奏者として私がこの曲に向き合うとき、人間の根源的な感情が渦巻いているように思えます。残酷さ、どろどろとした欲望、狂気、生きていることの苦しみと輝き――それらが一斉にうねり、やがて行き着く先は絶命であるかのようです。けれど最後に、瞼の裏に彼岸花が風に揺れる光景が微かに浮かぶ。その余韻は、一種の最上級の美しさを描いていると感じざるを得ません。

執筆者: 杉浦 菜々子

楽譜

楽譜一覧 (1)