カプースチン :8つの演奏会用エチュード 前奏曲 Op.40-1

Kapustin, Nikolai:Eight Concert Etudes Prelude Op.40-1

作品概要

楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:練習曲
総演奏時間:2分00秒
ピティナ・ステップレベル:展開3

解説 (1)

執筆者 : 川上 昌裕 (1984文字)

更新日:2007年7月1日
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第1番 プレリュード Prelude

突き抜けるように明るくリズミカルな音楽は、カプースチンの持つ大きな魅力の一つ。目まぐるしく両手で奏される16分音符は、打楽器の効果を作り出している。聴く人には、ピアノ1台でまるでジャズコンボが演奏しているような錯覚をもたらす。音楽は陽気なラテンのリズムで貫かれ、終始ゆるぎない8ビートが躍動感を生み出している。導入部の後に現れる主要テーマは、二度目に出てくる箇所ではジャズの即興演奏のような趣で変奏される。

第2番 夢 Reverie

全体は三部形式で、両端の部分は右手の重音トレモロのエチュードという様相。音楽の響きは全8曲中でもっともクラシック音楽風といえる。曲の始まりは8分の12拍子で、これは遅いテンポの4拍子で裏拍にアクセントを持つゆったりとしたロックのリズム。曲の中ほどにテンポの速いジャズワルツが挟まっている。ここでは、第8番の副主題として歌われるキャッチーなメロディーが先取りされている。3拍子に乗って拡大されたリズムで奏されるこのテーマが二度繰り返されてから再現部へ戻る。

第3番 トッカティーナ Toccatina

第1番と同様、ジャズロックのスタイル。タイトルらしく、連打の奏法が含まれた二つの主要主題からなっている。この同音連打が特徴的なため、リズムは8ビートが明確で、まるで打楽器が一緒に演奏しているような効果を出している。第1の主題はブルースケールに基づいたメロディーで、右手に連打音が頻繁に出てくる。もう一つの主題はより歌謡的で、ここでは同音連打は左手にいくらか現れる。この情熱的な第2主題のメロディーがこの曲を魅力的なものにしている。

第4番 思い出 Remembrance

もともとは7/4拍子で書かれたが、最終的に3/4拍子と4/4拍子が交互に現れる形に書き直された。3つの部分からなるが、両端部分はおもに左手でハーモニー、右手は装飾的で即興的なパッセージを奏する。中間部分では、両手の役割がほぼ反対になるが、音楽は途切れなくつながっていく。全曲を貫いている流麗なパッセージは瞑想的でもあり、またロマンティックで情熱的でもある。作曲者によれば、英訳タイトルは“Remembrance” よりも“Reminiscence”(回想)のほうが好みだという。

第5番 冗談 Raillery

「冗談」(Raillery)とは、「悪意のないからかい」という意味。ブギウギのスタイルで書かれている。ユーモラスでかつ大胆な表現が際立つ曲。左手の音型が重要な役割を担い、ブギウギ特有のバウンスリズムも現れる。小さな序奏の後に、ブルース形式の12小節構造によるテーマが始まる。これが発展しながら変奏されて最後まで合計8回続いていく。7度目の変奏でテーマは原型に近い形で再現する。全体を通してピアノの音域を幅広く使い、非常に演奏効果の高い作品となっている。

第6番 パストラール Pastorale

派手な第5番と第7番に挟まれておとなしそうなタイトルを持つ作品だが、技巧的な難易度は他の曲と同様に高い。主要主題は、ノンレガートで奏することを指示されたシンコペーションを特徴とするご機嫌なメロディー。もう一つの副主題も基本的に同じリズムからできているが、主要主題とは雰囲気の違う多少メランコリーなメロディで好対照をなしている。全8曲を通して聴く人にとっては、この曲は息抜きになるような心地良い曲想を持っている。

第7番 間奏曲 Intermezzo

この曲はストライド・ジャズのスタイルに倣っている。まずは右手のスウィングする魅力的なテーマが主役。テンポはこの種の曲にしてはあまり速い曲ではないが、曲の中ほどで左手のストライドリズムに乗って右手16分音符を奏し始める。このあたりから、曲は「三度のエチュード」のような様相を呈し始める。右手は重音のパッセージを弾きまくるが、それに対して左手の4ビートの刻みはずっと不変なのが面白い。しかし、やがてはその左手のストライドも4分音符から8分音符になって動きは二倍に速くなり、曲は明るい活気に満たされて終わる。

第8番 フィナーレ Finale

いかにも曲集の最後を飾るにふさわしい、休みなく速いテンポで駆け巡る終曲。この第8番がこのエチュード集を生み出すきっかけとなった。第1主題は、両手の速い8分音符によるリズムの絶妙な絡みで奏される打楽器的なリズムに支えられている。この曲の第2主題は、第2番「夢」の中間部に借用された。このエチュード集を最初から順番に聴いていくと、ここで初めてこのメロディーの本来の姿を聴いたような錯覚に陥り、懐かしい気持ちになってしまうような効果を生んでいる。曲は小さなソナタ形式であるが、再現部、コーダに向かって音量も音域も拡大していき、最後に強烈な印象を与えて締めくくる。

執筆者: 川上 昌裕