このソナチネは全音の第2巻に載せられていますので、なじみの薄い方もいらっしゃると思います。技術的には比較的簡単なソナチネですが、演奏法によっては格段に美しいソナチネになります。我々は小学生の時の音楽の授業で、例えば4拍子の場合、1拍目は強拍、2拍目は弱拍、3拍目は強拍(しかし1拍目よりは弱い)、4拍目は弱拍、と指導を受けたと思います。しかしながら、実際の西洋古典音楽では、1拍目が強拍になる事はほぼありません。多くの場合、1拍目はフレーズの終わる部分であることが多く、実際には弱拍になります。
もう1つのヒントとして、このソナチネにはペダルは必須です。アシストペダルを使ってでもよいので、ペダルを入れて下さい。結果は雲泥の差になります。
では冒頭から見て行きましょう。2つの、4小節ずつのフレーズから始まります。1小節目、ペダルを踏みます。そしてそのままペダルをある程度踏み続けます。結果、1小節目の2拍目左手の8分休符や3拍目の2分休符は守られないことになります。これに異論がある方はそれはそれで一理ありますが、筆者であれば、このdolceで優雅なメロディーラインを考えたとき、厳格なムードよりは甘美なムードがあると考えますので、休符を無視してでもペダルを入れます。
それではそのペダルは何処まで踏み続けるかという話しになりますが、1小節目4拍目辺りまで踏み続けても構わないと思います。そしてラインは2小節目の3拍目のAに向かわせます。Aに達したら衰退さえ3小節目の右手Hに下りてきます。故に、前述したとおり、この1拍目のHは最も弱い音となります。
余談になりますが、このようなフレーズの最後の音にアクセントを付けてしまう学習者の場合、その最後の音が1の指であることもしばしばあり、1の指が他の指に比べて強い指であることからアクセントが着いてしまうケースが多くあります。充分気をつけます。
さて、フレーズがHに下りてきたら次は4小節目の右手1拍目Dに向かい、Dから3拍目のGに下りてきます。しかしながら、1-2小節間と比べたとき、3-4小節間の方が穏やかなムードとなります。感情が強いのは1-2小節間と考え、ソリストのソロの部分と考え、3-4小節間は安定したムードと考えます。
この場合、再び4小節目3拍目のGはフレーズの終わりですが、この音も1で取られる可能性がありますので、アクセントが付かないように注意します。
2つ目のフレーズ、5-8小節間は、1-4小節間と比べて更なる感情の強さが出るフレーズです。7-8小節間の左手を考えたとき、7小節目1-2拍目が展開形になっていますね。これだけで緊張感が異なりますね。ちなみに、3-4小節間は基本形ですので、安定して聞こえますね。7-8小節間では、何かに期待をするわくわくした気持ちの表現かもしれないです。
3-4小節間が下行して終わるのに対し、7-8小節間は今度は更に上行して、9小節目の1拍目右手のEにたどり着きます。これまでで最も高い位置にある音になります。8小節目からは右手の3度や6度が入ってきますので、内声の方が外声よりも大きくならないように細心の注意を払います。特に6度は、内声の音を担当する指が1や2の場合が多く、力がついつい入りがちになります。特に1の場合、少し浮かすような感覚で打伴をすると良いでしょう。
9小節目から始まる左手の16分音符は滑らかに、軽く、柔らかく、弾かれるべきであり、マシンガンのようにならないように注意します。勿論、この16分音符にペダルを入れる事は御法度ですので、左手のレガートのみに頼ります。
この9小節目からのフレーズは、シークエンスのように同じ音型が5つ、5小節分、つまり13小節目まで続きます。ここで注意したいこととして、この5小節間を決して同じ音量にならないようにすることです。音型としては13小節目に近づくほど下行してきますので、13小節目を最も弱くするという考え方で良いのですが、例えば9小節目と10小節目を比べたとき、10小節目の方がよりテンションが高いので、10小節目は9小節目よりも音量を出すという考え方は全く否定しません。
例えば12小節目はこれまでの緊張を一気に解いてくれるような小節とも取れますね。そのように、和音の性格を敏感に感じて音量だけでは無く、カラーも変えていきます。そして14小節目のカデンツにたどり着きます。14小節目、くれぐれも硬くならないように、右手をppで、左手をシェープして下さい。そしてこの14小節目のような部分にはペダルは必須です。右手の3度が切れないように、しかし濁らないようにペダルで繋ぎます。
15小節目再びソリストの部分になります。伴奏が無くなりますね。このソナチネの1楽章で注意したいところ、演奏の善し悪しを左右するのはこの右手のソロの部分かもしれません。如何にたっぷりと歌えるかが勝負になります。伴奏はありませんので、自由気ままに、時間を余計に取ってでもたっぷりと歌い上げることがコツになります。もう言うまでもありませんが、例えば15小節目、3拍目のFisは、HAGFisと下りてきた部分です。そのあと再びAにあがりますので、このFisにアクセントは付けないようにします。HAGFis、AGED、という2つのフレーズと考えます。
さて、前述した注意点(1拍目は強拍にしない)の最たる例が19小節目です。19小節目には、ペーター版で初めてフォルテが書かれています。これを見たとたん、音量を大きくする学習者が多く居ますが、19小節目の1拍目は前のフレーズの終わりですので、アクセントは付けません。19小節目よりも小さく終わります。フォルテを守るのはその後の話で、4拍目のDに向かってあげていきます。
この第1楽章は分析する必要さえ無いほど、形式が明らかです。21小節目から展開部と考えます。21-24小節間、同じ音型が4回、1小節ずつ続きますね。この4つの小節は、同じ音量にならないように注意しますが、筆者の考えであれば、22小節目は21小節目の解決和音であり、24小節目は23小節目の解決和音とかんがえますので、22は21よりも弱く、24は23よりも弱くという考え方にしています。これは皆さんの自由な考え方で良いと思いますが、24小節目が最も大きくなるというような事は無いと思います。
29小節目から再びソロの部分、今度はとても忙しいですね。29-30小節間、早口のオペラ歌手が話しているような感覚でしょうか。とても楽しい部分です。この展開部、とにかく色々な感情が入り乱れます。厳しい感覚の32小節目に対して、対称的な35小節目ですね。学習者はそれぞれの場面場面に想像力を働かせ、表現して下さい。何事も無かったようには弾かないことです。